濁り水 (ページ4)

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一枚しか写真を撮らないのは、

どうやら自分の中のきまりがあるかららしい。

「一日、一枚でいい」

「俺は、それでいい」

そう言って、カメラから実際の景色へと、

視線を移した。

「朝日さんは、よくここに来るの？」

丘の上にある、小さな平たい石に腰掛ける。

「そうだね」

「疲れたら、ここに来る」

「今日は、疲れた？」

ふいに質問をされ、戸惑う。

「そういうわけじゃないよ」

「ただ、作間くんを連れてきたくなった」

と返す。

これが一番無難な返事ではないか、と思う。

「そっかー、それは嬉しいな」

こんな景色が毎日見れるなら、

ここへ越してきて良かった、とも言った。

「 ......俺は、朝日さんと友達になりたい」

「え？」

私は生まれて此の方、

正面から、「友達になりたい」

と言われることがなかったため、嬉しく感じた。

「大歓迎だよ」

とすぐに返事をし、微笑む。

すると君も微笑んでくれたので、

心の温度が上がった気がした。

近くに咲いていたたんぽぽも、

こちらを見て微笑んだような気がする。

陽が落ちてきて、お互いの顔が暗く映る。

「朝日さん、もう帰る？」

君は絵を描きながら、私に一瞥をくれた。

「作間くんはまだここにいるの？」

夕飯には早い時間だった。

私はまだここにいても親に叱られることはない。

そもそも、唯一の親である父は、

まだ家にいない時間だ。

「そうだね」

「俺は、さっき初めてこの景色を見た時の感動を、描きたい」

と言った。

鉛筆一本で、紙の上で手を動かしている。

作間くんは色を使わない。

昼に見せてくれた絵も、

鉛筆で描かれたものだった。

「ここは欲がないし、都会とは大違いだ」

君が言う。

「また、朝日さんと来たいな」

そう言って笑った。

胸に矢が刺さったように感じる。

きっと気のせいだろう。

久しぶりに人とこんなに話したからだ。

「あ、朝日さん？」

不思議そうに首を傾げている。

私はその理由がわからず、

どうしたものかと君を見つめた。

すると急に立ち上がって、

私の前にしゃがんだ。

「涙、出てるから」

細くて長い指が、私の頬に触れる。

「そんなに、悲しいことがあった？」

「目が、濁ってる」