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Aはその日、様子がおかしかった。
別れ際に「バイバイ」って言うだけで、いつもみたいに「また明日」がなかった。
なのに、僕は大して気付かなかった振りをして。
だって、言い忘れることだってあるでしょう。
僕たちの関係が特別な名前を持っていたわけでもないし。
でも、僕がバカだった、なんて分かりきったこと。
何度後悔したかも、わからないくらい。
あの時君を引き止めてたら、
君はまだ僕の隣で笑ってたかもしれない。
なんてね。
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いつも勉強会をしてた図書館。
そこでいつものようにAを待ったけど、
その日は待っても待っても来なくて。
ふっと浮かんだ、別れ際の君の顔。
嫌な予感しかしなくて、教務室に急いだっけ。
「え?Aさん?
…今日日本に帰国したよ?」
まさか、とは思ったけどあまりにもショックで。
Aがいない日常は、僕には考えられなかった。
世界が真っ暗に見えるほど。
暗闇の中でも、過ぎていく1日1日。
「イーシン、飯食いに行こう?」
そんな中、突然連絡してきたのがルハンだったっけ。
中国出身同士、ある程度仲は良かった。
最初は外出なんてしたくなかったけど、あまりにしつこいルハンの押しには、結局負けてしまったんだ。
そうしてまた時は過ぎて。
韓国の大学で無事単位を取り切ったとき、
「実は、イーシンを連れ出してってAに頼まれたんだ」
そうやってルハンが言ったんだよ。
それから、リングを渡された。
僕が好きなユニコーンが内側にそっと彫られたリング。
なんで直接渡してくれなかったの?
僕、今でもずっと付けてるんだ。
ルハンに本当のことを言われるまでは、
「Aは僕のことなんて、何にも思ってなかったんだ」
なんて考えて、必死で存在を忘れようとして。
だから辛くて辛くて、全然泣いたことなんて無かった。
でも、ルハンの言葉を聞いた瞬間、「やっぱり、やっぱりAは…。」なんて思った自分が居て。
Aは、僕のことを考えてくれてた。
今はただ…Aに会いたい…
君だから、他の誰でも無いAに会いたいから、その想いだけが僕を今ここに立たせてるんだ。
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作者名:あよん | 作成日時:2016年2月20日 17時