湾岸 ページ9
｢…お宅の幹部殿は美しい｣
｢そりゃあ俺だって嫌な程知ってるさ｣
私が目の前に居るのに檻を挟んで私の話をする可笑しな男二人
｢確りとした清らかな女性だ…私も美しい人を始末しろと上から命令され写真を見せられた｣
｢お互いの命を狙い合っていたのね｣
こんなに褒められると何が罰が当たるのでは無いかと不安になるが悪い気はしない
｢心を奪われたのだ。命を奪う等迚じゃないが出来ない…寧ろ生きていて欲しいとさえ願った｣
｢愛で改心するマフィア？笑わせてくれるね。どうせ罠だろう？｣
おついちさんが性悪な顔で笑う
｢そうよ。其れに私の事を知っているかしら｣
｢“拷問部隊のお姫様”それでも構わない。私に美しさを教えてくれた｣
仮令嘘だとしても何だか尋問するのも気が引ける
｢私は貴方を尋問出来ないわ。何されるか分からないもの｣
｢ねぇA｣
｢どうされ…っ｣
おついちさんに抱き締められ、深いキスをされると快感で腰が抜けて座り込んでしまった
｢…汚した罪は大きいぞ幹部殿｣
見なくとも分かる鈍ましい殺意に怖気付く
｢Aは元から俺達の愛玩同然さ。それがAだよ｣
｢…愛玩｣
改めて口に出されると恥ずかしいがモノでしか無い。私は人間でもなく、只の一族を繋ぎ止める紐
｢容姿は確かに美しいけど、心から美しい人ならこの世界には存在出来ない。皮肉にもAは生粋のマフィアだ。生まれた時からね｣
その男は泣き崩れて地に伏せた
これがマフィアかと疑いたくなるが、憎しみに心を支配された人間は恐ろしい
｢…貴方の狙いは何だったのですか｣
話も聞かない程狂った様に泣き叫ぶ姿に恐怖を覚える
｢いい加減にしてくれ。俺達は忙しい。恋に現を抜かしている暇なんて君と比べて無い。幸い俺はAを愛している｣
おついちさんは徐にホルスターから銃を取り出してその男に向けた
｢愛に狂って裏切る馬鹿野郎の所業なんて俺には理解出来ない｣
そう言って無慈悲に引き金を３回引いた
｢…美しき人よ…一目見た時から…此の世界が…違って見え…｣
私は如何すれば良い
何故か悲しくて涙が零れた
｢…Aを見ただけで世界が変わったなんて、俺からしたら皮肉な話だよ。こんなにも目にしてるのに、救いようのない世界で生きていかなければならないなんて｣
頭を撫でられて、それから引き寄せられる様にして腕を回されて地下牢を背に2つの足音だけを響かせた
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作者名：姫乃 | 作成日時：2019年5月19日 23時
