擱岸2 ページ8
｢Aが本当に困ったら俺にカクテルを奢るという体で知らせてくれ、良いな？｣
｢ええ。分かりました｣
バーで接近しようという結論に至り、客の半分は組織の構成員
皆他人の振りをして私の護衛をしてくれる
｢ベリーニを｣
美しいカクテルを眺めながら標的が来るのを待つ
｢…｣
静かに開いたドアと共に何故か冷たい空気が入ってくる錯覚に陥らせる人
｢…ネグローニを｣
寒気さえ覚える
太陽のひとつも無い冬の世界で生きている様な人
｢ネグローニですか。素敵ですね｣
もう仕事は始まっている
｢お独りですか｣
｢そうよ。貴方は？｣
｢見れば分かるでしょうに｣
丸眼鏡、骸骨の様な体型、猫背、長身。覗けたホルスター
｢ベリーニ…甘いのがお好きなのですね｣
そんなに危険なのかと疑ってしまう程憂いを帯びた人
｢ええ好きなんです。良かったら一杯お勧めさせて下さい｣
これで一気に片をつける
雰囲気で判断してはだめ。首が写真の儘。此儘騙されていたら組織に危害が加わるかもしれない
｢有難う御座います。女性に奢らせるのも気が引けるので一杯僕も奢りますね｣
何があっても私は席を離れないし、飲み物から目も離さない
｢有難う御座いますね。楽しみにしています｣
首を傾げながら微笑んだ
｢…では私は少し席を外しますね。電話が｣
好機
｢お気をつけて｣
毒薬を混ぜるには今しかない
ポケットから取り出して封を切って入れ
｢…お嬢さん、この港湾都市を牛耳る組織の娘｣
｢私の計略は見え見えだったのね｣
｢綺麗な容姿で有名ですから。死んで頂きます｣
銃口が私の方へ向けられる
私は深呼吸をしてカウンターに体を向ける
｢…マスター、エックス･ワイ･ジーを｣
その注文の言葉と同時に皆が立ち上がって銃を向ける
｢貴方の負けよ｣
｢…一枚上手ですね。願わくば貴嬢とは違う形で出会いたかった、たった一人の綺麗な人よ｣
｢致死量は入ってないわ。飲んで頂戴、乱暴に捕まえない為のせめてもの情けよ｣
その男は黙って睡眠薬の入ったカクテルを飲み干した
｢…A、助かった｣
｢ええ。然し何故諜報部隊に頼むのかしらね｣
｢弟者は顔が割れてるし、おついちもその可能性がある…が、Aも顔が割れていたとはな｣
美しい人だなんて、不相応なのに
私には勿体無い言葉
｢名誉なのか不名誉なのか分からないわ｣
｢取り敢えず飲むか…勝利の美酒だ｣
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作者名：姫乃 | 作成日時：2019年5月19日 23時
