絶海 ページ39
｢私もゆくゆくは働くのですか？｣
今日もお花を変えに来た執事に思わず投げかけた質問
｢…そうですね、ご主人様に聞いてみます｣
｢ありがとうございます｣
お父様は知っているのね
きっと何かある予感がする
四年ぶりに目が覚めたけれどそれでも感は子供の頃と変わらず冴え渡っている
｢お嬢様、こちらへどうぞ｣
神妙な面持ちになって執事が戻ってきた
｢どこかへ行くのですか？｣
｢ご案内します。貴女に貴女自身の存在意義を教えるためにです｣
この部屋から出たのはいつぶりだろう
そんな記憶も無いくらいの時間が過ぎてしまったと言うことだと思うと惜しくなった
もっとできた気がする
｢お嬢様が目覚めてようやくこの組織の存続が決まりました。おめでたい事ですね｣
｢そうなのですか｣
｢今夜はお祝いでしょう。お嬢様も目覚められた事ですし、フロップだった貴女のプロトタイプも最新式になりますよ｣
フロップだった私のプロトタイプ…？
｢ああ、分かりませんよね。でもひと目で分かりますよ｣
厳重な扉の前にはお父様とお母様
｢あら、可愛いA。この世界の仕組みを知る時が来たとは｣
｢開けるぞ。くれぐれも泣いたりしないでくれよA｣
重い音がして分厚いドアが開いた
光もなく、ただ電子音の鳴っている部屋
｢やはりAは可愛いな。お前の複製を作ってしまうほどに可愛い｣
電気をつければ私と瓜二つの顔をした女が台の上で沢山のコードに繋がれながら眠っていた
｢…え？｣
｢Aは寵姫、しかし立場が危ういから役職を与えて守っていたのじゃ。Aは組織の命綱だから万が一があっては困るてのう｣
死んでは困るから複製を作ったのは理解出来た
｢今はプロトタイプが頑張ってくれている。拷問部隊幹部としてね。自分のポストを超えて前線に駆り出したりしたが優秀だった｣
｢私の代わりの私が働くということですね｣
皆黙って頷く
｢私に…いや、Aに会ってみたいです｣
｢それはやめておいたほうがいい。フロップは完全に自分が寵姫と思っている。それに感情が邪魔をしてミスが増えてきたからそろそろデータだけは抜き取って処分しようと思う｣
そんなの可哀想
｢悲しい顔をしないでおくれA。あの子はあくまで自律型のドールに過ぎない｣
いわゆる魂の入れ物だと言う
｢そうですね｣
｢そして次からは最新式に切り替える。Aの役割は後継を作るだけだ。しかし死なれては困る。分かるね？｣
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作者名：姫乃 | 作成日時：2019年5月19日 23時
