右岸3 ページ34
｢急に呼び出して何だよ、おついちさん｣
｢良いから、一寸Aを見て欲しくて｣
｢ああ。弟から異変は聞いているが俺が何か役に立てるのか？｣
｢分からない。でも…｣
おついちさんの邸宅の寝室で横臥した状態で只ぼんやりと話を聞いていた
どうやら兄者さんも来たらしい
｢A、少し体を貸してくれ。貴嬢の為、俺達の為にも眠っていて欲しい｣
頷いて目を瞑った
｢…お休み、綺麗なお嬢さん｣
横に来るや否や手巾を口元に当てられ、私は眠った
嬉しい気持の儘眠れるとはなんて幸せなのかしら
｢美しいね。永遠に此の儘であって欲しい…A｣
死んだ様に眠る彼女
｢…さてと、綺麗に眠るお嬢さんの綺麗な体に傷を付けるのは嫌だけどやるしかないね｣
傷一つ無い美しく滑らかな絹の様な肌
呼吸で上下する胸
艶やかな髪
人形の様な長い睫毛
｢あんなに前線に駆り出されても怪我しなかったのが奇跡に感じる｣
無機質な腕を取り刃を当てる
｢…大的中。之は後で弟にも報告だな｣
｢薄々勘付いていたのか？｣
｢まァ、一応。そろそろお嬢さんのお目覚めだ｣
｢…私、｣
手首に巻かれた包帯が在る
傷が見れなかった
残念でならない
何かの目的があって意図的に傷を付けたのは分かるけれど何の目的なの
｢お早うお嬢さん｣
｢あの…私…｣
恐らく今は深夜
三時間程眠っていた事になる
｢…A、気持と言葉が一致しないなら無理に話さなくて大丈夫｣
また頷いてから起き上がり後ろを着いて行った
｢ごめんね、腕に傷をつけさせてしまって｣
｢…何の目的があって付けたんですか。私は傷が付かない事に特化した｣
怒った口調で言いかけた途端、何を言うのか宿主の私でさえも分からない言葉の先を遮る様に口許を押さえられた
｢A、何も心配は要らない。其の不快感も全部兄者が何とかしてくれる｣
嬉しくても貼り付ける表情が分からなくて無言で抱き着いて其の儘口唇を重ねた
｢A…？！｣
喜びも束の間、夢から覚める様な電話の音と共に安心感が消される
｢…僕のだ。Aは先に兄者の所に行ってて｣
不安と悲しみを引き摺ってリビングルームへ
矢張り綺麗で広い家だった
｢A、俺が全部変えるから安心しろ｣
｢嫌よ｣
また口が嘘を吐いた
違うのよ！と思い頭を振る
分かっていると言わんばかりに笑ってくれる
｢悲劇のお嬢さんや、全て任せろ｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：姫乃 | 作成日時：2019年5月19日 23時
