此岸2 ページ4
｢…A、綺麗な夜景でしょ？｣
組織御用達のレストランは港湾都市である縄張りを一望出来る
｢そうね。迚綺麗｣
｢今頃弟者は奇襲してるんだろうね。こんなに優雅な食事をしてるって言うのに働き者だよ｣
香水は血腥さを消す為に在るのでは無いかと思わせる程に消してくれてお陰で外出出来た
｢お父様の命令には逆らえませんもの。逆らったらアレを喰らうなんて真っ平御免よ｣
“鳩尾を蹴って、脳天を撃ち抜く”
｢平常Aは遣って居る側だからね。拷問班のお姫様｣
拷問班のお姫様、又の名を白の悪魔
｢諜報部隊の誰かでしょ？私の通り名なんて｣
マフィア随一の過酷な仕事を担う拷問部隊幹部に斡旋したのは何処の誰か教えて欲しい
｢おいおい幹部殿お二人で食事とは仲睦まじいなァ｣
不満げに椅子を運んで来たのは兄者さん
｢兄者は呼んでないけど。これからAとシーツの海に溺れる予定だけど｣
｢俺はAに逢いたくて来た｣
｢言ったじゃない。そういう関係は持たないって｣
グラスを態と強めに置くと流石に困った顔してくれる
｢私怒ってるのよ。信頼して付いて来たのに｣
｢ごめんね。如何してもAが欲しくって｣
そんな甘い言葉今は要らない
｢卑怯よ｣
鞄を持って立ち上がると兄者さんに宥められた
｢まァA座れって｣
｢…そんな口説かなくたって、私は貴方達の愛玩同然じゃない。ウチは血を濃くするのが好きなんだから｣
そこに愛情が無くても、組織の為ならと数多の女が犠牲になったのかもしれない
｢仮令そうだとしても、Aが｣
然し私達は生憎愛し合っていると言っても好い
｢御生憎様、そんな言葉無くても好きよ皆。でも今は仕事で手一杯。構成員皆確と家に帰すの｣
｢Aがそう言うなら引き下がって遣れよ、おついちさん。俺だって今は身を引いてる｣
兄者さんに握られた右手が熱い
｢そうだね。大人気なかったわ｣
｢…ええ｣
目の前の美酒を口に含むと先程違って甘い味がした
｢それでは私は｣
名残惜しくもその優しい笑顔を背に歩く
あんな人が無慈悲に人の命を奪っているなんて考えたく無いと初めて思った
｢送ってってやる。本部か？｣
｢そうね、有難う兄者さん｣
海風が心地好く頬を撫でて楽しい夜のドライブ
｢A、先日の尋問は思いの外早かったが何か遣ったのか｣
｢…あ、その日は弟者くんに呼び止められて部下が仕事を丸々任せてくれと｣
何かあったのかしら
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作者名：姫乃 | 作成日時：2019年5月19日 23時
