切岸3 ページ25
時々早く死んで仕舞いたくなる
そんなタナトスは私を愛していたりする
だから私にその感情を抱かせるのだ
｢…その線の先には何が拡がっているの？｣
｢…生命、金、富、名声、国家機密、一人の人生からひとつの国家、またはひとつの聯合…様々だよ｣
世界は想像しているよりも広く、想像しているよりも狭い
最早精神的な拠り所が科学技術となった今、コレを司れる者がマリオネットを動かせる者
即ちこの世界のコマンダァという事だろうか
｢兄者さんの釦一つで沢山の命が奪えてしまう、そういう事ね？｣
｢ああ、その通りさ｣
満足気に画面を見ては天井を仰いで深く息をする
貴方は何を知っているの
｢不思議ね｣
｢どうして？｣
｢大切な命なんて言うのに、釦ひとつ、引き金ひとつ、刃物ひとつ、縄ひとつで奪えてしまうもの。何よりも大事なものが命だとした時に、奪うには容易過ぎるわ｣
死神に魂の安売りのし過ぎよ、そう創造主に忠告さえしたくなる
｢だからこそ奪われない様にする、それこそが尊さをより一層強めるンだろ？お嬢さん｣
｢そうね。でも果たして本当に大切なのは生命なのかしら｣
生命は儚い
たった80年の甘い夢？80年もの悪夢？
捉え方なんて個人の自由だけれど
｢Aは何だと思ってるんだ｣
｢…私の愛する人々かしらね、迚臭い台詞だけど仕方ないわ。言葉がこれしかないもの｣
キーを弾く一つ一つの音が、世界に何かしらの影響を与えてしまっているのではないかと過剰に自意識が成長してしまう
｢貴嬢は俺の事をよォく、分かっているじゃァないか｣
｢そうかしら？余りよく分からないわ｣
如何に綺麗なものでも此処の部屋では全て三原色、詰まり三色が構成している
其の中の世界は全て三色なのだ
｢お嬢さん、貴嬢が俺の一番大切なものだ｣
困った様に笑う其の顔は、私が今まで見てきた兄者さんの表情の中でも特に穏やかなものだった
｢此の世には色々なものが有るのよ。それでも？｣
その物の価値自体を物で表現した様な物があったとしても私を選ぶ、私を選んでくれる、貴方はそう言うの？
｢…だから俺を置いては行くなよ。お嬢さん｣
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作者名：姫乃 | 作成日時：2019年5月19日 23時
