傲岸 ページ11
寝室に満ちるムスクの香りが形容し難い良い雰囲気を醸し出している
｢誰もが弟者くんに嫉妬しているのよ｣
私が膝枕するから嬉しそうに微笑む弟者くんの髪を触り乍言った
｢かと言ってAはおついちさんや兄者の事も愛してるだろ｣
｢そうね…でも好きよ｣
誰が一番等如何でも良い
今は只仕事や血縁を考えずに甘えて居たいだけ
｢Aに愛されているだけで俺は十分｣
｢寝室に招くのも弟者くんだけなの｣
決まってあの二人とは外でしか時間を共に過ごさない
｢如何して？｣
｢直ぐに厭らしい事を考える様に見えるからよ｣
｢俺だってそうかもしれない｣
貴方がそんな事言うなんて
｢良いわ今更｣
｢俺だけか…｣
何か皆には悪いな、と含羞み乍起き上がり、笑い乍寝台の縁に腰掛けた
｢皆にもそうすべきと弟者くんが云うのなら、｣
｢俺だけが良いよ｣
｢屹度そうよね｣
その隣に身体をピタリとくっ付けて座った
恋人、其れに似た様な雰囲気が出る
｢…A｣
自分の名前をその声で呼ばれると擽ったくも嬉しくて堪らない
｢Aが好きだ。仮令宿命の様に一緒に居させられてるとしても、俺はAが誰よりも可愛くて｣
声に出される其の情熱は例を見なかった
其の手が伸びて私の頬に触れる
｢…弟者くん｣
大きくて優しい手
｢可愛いAの為なら俺は何だって出来るさ｣
その手の上に自分の手を重ねると私の手の冷たさに気が付いた
｢冷たくてごめんね｣
血の通っていない人間かも知れないと時々不安になる
｢それなら俺が温めて上げられるから其れで良いよ。寧ろ其れが好い｣
滴る赤い血は自分には無いのかも知れないとか
｢暑くなったら冷まして上げられるわ｣
｢そうだな｣
正反対の体温
只笑って手を握り合っていた
其の様な夢からも直ぐに醒めなければならない
｢…A、電話が鳴ってる｣
｢何かしら｣
震える電話を手に取って耳に当てると嫌な位聞き慣れた声
[A、弟者君、君達が仲睦まじくしてくれているのは有難いよ。然し仕事だ。今直ぐ本部に来い]
返事もせずに電話を切った
｢何故知っているのかしら。カメラ？｣
決められた関係では有るけれど公に約束して居ない
｢俺は寧ろ好都合だよ。差を見せ付けてあげられるから…｣
兄者さんとおついちさんに…屹度そう
決まり切った関係なのに我先に一番に成ろうと取り合うよく分からない人達
｢初めから皆同じよ｣
｢俺はそれでもAの一番に成りたいから｣
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作者名：姫乃 | 作成日時：2019年5月19日 23時
