wake up at dawn [green] (ページ45)

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幸せを壊す権利とはページ45

肘掛に凭れて、弟とチェスをしながら珈琲をゆっくり窘める

俺に笑いかけるあの娘はもう居ない

あの娘が居なくなった世界で俺は生きていかなければならないと、考えると目の前が真っ暗になる

Aは俺の心に火を灯してくれた

｢もしも俺がAと政略結婚でもしていたら…｣

｢もしもも糞もねぇだろ。あれは事故であり事件だった。あれから長い時間が過ぎている…｣

｢だとしても俺はAを護りたかった！騎士として、一人の男として！！俺はAを愛していた！｣

愚弟が駒を乱暴に置き、ポーンの首が折れた

｢そんなに怒るな……今更だけど、弟者の許嫁はAだった｣

｢え？！は？嘘だろ？｣

折れたポーンを投げ捨て、アルバムをそこら辺から取り出す弟の姿を見て本気具合が伝わる

何よりAは本当に可愛かった

｢嘘つかねぇよ、ずっと黙っていて済まなかった｣

…誰かの物になるには惜しく、弟の許嫁であってもあの娘を独占するのは罪だと思うくらい優しくて愛しかった

Aのいる頁で捲る手をとめると、悲惨な最期に胸が苦しくなる

｢Aと結婚出来るんじゃないかって思った時本当に嬉しかった。呪われてるとか、変わってるとか言われてたけど…俺は本気で好きだった｣

｢そうか…｣

然し俺はAの新入り執事への思いは薄ら勘付いていたし、あの偶然過ぎた事件おかしい事は自明の理だった。それでも事実は、民衆に寄り添う愛しい伯爵令嬢のAが亡くなったという事に変わりない

｢…あの執事が関係しているなら聞く価値が有りそうだが｣

俺は駆け落ちと踏んでいる。彼奴は行方不明で街中で希にポスターを見かける

スコーンにたんまりと苺ジャムとクリームを載せると、甘党のAの事を思い出した

｢あの執事は辞めたらしいよ…Aが亡くなったショックから｣

もしもAが何処か別の所で彼奴と暮らしているのなら会いたいけど会いたくない

｢その執事に会えば？｣

弟は堪らなく嫌な顔をしながら外を見つめた。Aに微笑みかける弟の顔はいつもとは違っていたのを鮮明思い出す

｢でも兄者、執事は行方不明だし、多分駆け落ちしたんだろうね。俺嫉妬しちゃうな～｣

知ってたんかい

駆け落ちが嘘か本当かは関係無いにしても、俺は純粋にAが幸せであったのなら、あるのならそれで構わない

俺は黙って見届けるだけ

｢仮にそうだとしても事件まで起こしても一緒に居たかったんだろ。俺らに幸せを壊す権利は無いだろ｣