3話 ページ3
「……つか、あの。立てます?」
弁償するしないで話して、お互い埒が明かないと思ったのか、目の前の彼はそう話を切り替えてきた。
そこで、私は今まで地べたに座り込んでいることに気づいた。
「あ、大丈夫だと、」
思います、と言って足に力を入れる。
すると、ずきりと、両足が痛んだ。
その痛さに思わず両目をぎゅっと閉じた。
「……立てないんすね」
恥ずかしすぎる。自転車に当たったとはいえ、そんなことで両足をやられてしまう自分が、情けなかった。
「………家って、この辺すか」
「は、はい、あと7分くらい歩けば着きます」
「………じゃ、俺背負って行きます」
長身の彼が、近くにやってくる。周りに落ちている私の私物をバッグに入れてくれて、手に持ったあと、私に背中を向ける。
「えっ!?」
「……いいから、早く」
「で、でも!迷惑ですよ。あなただって何か用があって外出しているんですし」
申し訳なさすぎる。10時半を回っているこの深夜に、背負わせるのは気が引ける。少し時間が経てば歩けるようにもなる、はずだ。
「別に、俺もこの辺に住んでるから、迷惑じゃない、です。……それに、おれのこと、知らないみたいだし」
最後にぼそりと何か呟いた言葉は聞こえなかったが、とにかく彼はもう譲る気がないらしい。
………仕方ない、謝礼は後でちゃんと伺おう。
「わかりました、あの、重たかったらすぐに言ってください」
「………それで俺が下ろすって思ってんすか」
ふは、と彼は初めて笑った。
✱
「………ああ、大学生なんすか」
「そうです。今日飲み会だったんです」
「………俺はそういうのあんまり行かないです」
彼に背負われて、ゆっくりと夜道を進む。
暗闇を無言で歩くのはきついのか、色んな話をしていた。彼は今コンビニにお茶を買いに行った帰りらしく、ガサゴソと袋が揺れていた。
「……あの、そういえば名前、お聞きしてもいいですか」
「え、」
「あ、その、お礼をちゃんとしたくて、連絡先と名前をお聞きしたかったんです」
彼がすごく、動揺した声を出したので、きちんと理由を言った。
こんな優しい人に、何もしないなんて私自身が許せない。
「……………きよ、」
「え?」
「きよ、です。おれ、たいしたことしてないので、連絡先は、大丈夫っすよ」
「………いえ、」
ぎゅ、と首に回している両手に力を入れた。
「ここまでしてくれて人に、何もしないのは、私が許せませんから」
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りんご(プロフ) - ちぃさん» コメントありがとうございます。かっこいいと言っていただけて嬉しいです。ここ最近リアルなどが忙しいので、更新に波があると思いますが、長い目で見ていただけると幸いです! (2019年11月21日 18時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ(プロフ) - 7話まで一気に読ませていただきました!キヨくんかっこいいです。続きが楽しみです。無理しない程度に頑張ってくださいね! (2019年11月21日 9時) (レス) id: bc58f84b7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りんご | 作成日時:2019年11月10日 20時