12話 ページ12
「それに……俺の事知らない奴が広げるとは思えねえし」
小さい声は聞こえなかったけど。
何も言えなくなってしまった私に、キヨさんは続けた。
「それに、俺、まだお前と会わなきゃならないから」
なんのことだろうか。私は彼と会う目的は、ないはずだ。考えても、何も見つからない。
「俺、お前の鏡割ってんだけど」
気づかない私に痺れを切らしたのか、彼は私から目を逸らして小声で言った。
ああ、そういえば。
バッグをぶちまけられた時に落ちた鏡を、彼が踏んだんだった。粉々になった破片を、おぶってもらう前に軽く片付けたのを思い出す。
「本当は今日鏡返そうとしたんだけど。俺そういうのよくわかんねえから、買わなかったんだよ」
調べたんだけどな、とキヨさんは困った顔をした。
「……鏡くらい、気にしなくてもいいのに」
「おぶったくらいでこんなにお礼してもらったのに、鏡割った俺が何もしねえって、それはないだろ」
むっとして返される。少し鋭くなった目が、私を見ていた。
「しかもあの鏡、調べたけど、めちゃくちゃいいやつじゃん。そんなの割った俺が、なんでお前に何も言われねえの。気味悪いんだけど」
……この人は非常にストレートである。この人とあったの本当に2回目?と思ってしまう程に。
まあ、あの鏡は大学の入学祝いに買ってもらったものであるから、少し値は張っているが。
「お母さんに買ってもらったんですよ」
「……じゃあ尚更俺割っちゃいけないやつじゃん」
「いえ、もう言ったんです。落として割れちゃって、キヨさんが拾うの手伝ってくれたって」
この間の母親の勢いを思い出したのか、キヨさんはかなり顔面蒼白になる。それを見て、かなり堪えたのだなと内心笑ってしまった。
「そ、それで?」
恐る恐る聞いてきたキヨさん。私は安心させるように笑った。
「『キヨさんの靴は買わなくて大丈夫かしら……ていうか彼に怪我はなかったの?!あんたそれ早く言いなさいよ!あんたの手当よりキヨさんの手当が先じゃないの!』って、言われました」
すると、キヨさんは大きく息を吐いた。
「………あのお母さんあってのお前だな」
「え?」
「じゃあ決めたわ」
ガタン、とキヨさんは立ち上がり、近くにあった伝票を手に取った。財布を取り出していつの間にかレジにいたお爺さんに値段を支払う。
私は慌てて上着を着て追いかけた。
「次また連絡するから、その時に鏡、買いに行こう。A」
「……は、い」
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りんご(プロフ) - ちぃさん» コメントありがとうございます。かっこいいと言っていただけて嬉しいです。ここ最近リアルなどが忙しいので、更新に波があると思いますが、長い目で見ていただけると幸いです! (2019年11月21日 18時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ(プロフ) - 7話まで一気に読ませていただきました!キヨくんかっこいいです。続きが楽しみです。無理しない程度に頑張ってくださいね! (2019年11月21日 9時) (レス) id: bc58f84b7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りんご | 作成日時:2019年11月10日 20時