週末-2 ページ2
どうしようもない感情を抱えて、退屈そうにカーペットを弄る彼を見つめる。
キヨは私といる時にはあまりスマホを弄らない。
付き合った頃からずっと、会話が少なくなってもずっと。
良い人なんだよな、と思う。
毎週金曜日は必ず一緒に過ごす。
これまた付き合った頃からの習慣だ。
これまでにそれが破られたのなんて数える程しかないし、どちらかに相当な用事がある時だけだった。
良い人なんだよな、声の代わりに溜息をつく。
良い人だから、もっとお似合いの人を見つけて、こんな沈んだ空気じゃなくてもっと明るくいられる人と恋愛をして、結婚をした方がいい。
私なんかと居ないでさ。
本心だよ。
嗚呼、溜息なんて吐くんじゃなかった。
重みを増した空気が、私を、彼を、押し潰していく。到底耐えられそうも無い。
「俺、帰るわ」
悲しくなるはずのキヨの言葉に、救われたと思ってしまう自分を心の中で呪う。
「じゃあね」
そう言ってドアノブに手をかけて、でも少し逡巡したように立ち止まる。
泣いているみたいな背中に、こんな私が何を言えるというんだろう?
行かないで、そう声に出せる私だったならこんなことにはなっていない。
好きなんだよ、そう言えたならきっと何もかもが解決するのに。
沈黙の数秒の後、結局何も言わず、言われず、キヨは消えていった。
その途方に暮れた背中がまるで迷子の子供みたいで、ふ、と笑いを零したけど、迷子はお互い様かと思い直して自嘲する。
ねぇ、なんでこうなったんだろうね。
もう何度思い浮かべたかも忘れてしまった言葉をまた、思う。
今日も彼の残り香だけが香る部屋で、私は1人で眠りに就く。
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作者名:りんち | 作成日時:2020年8月17日 20時