29 Abe side. ページ30
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Abe side.
大学も3年目となれば、だいぶ授業が少なくなって、自分の行きたい進路に向かっていって。
友達も段々と固定されてくるもんで。
「翔太、どこのゼミにするの?」
「‥女子少なそうなところが良い。」
「それならこのゼミは?しばらくゼミ生とってないらしいから間違いなく人は少ないし、人気はないよね。」
「じゃあそこでいっか。」
いつも一緒に行動する渡辺翔太は。
俺が出会った中2の時とは別人になってしまった。
昔は、もっと。
元気で無邪気で。表情も明るかったのに。
何がそうさせたのか。
答えは簡単。周りにいるたくさんの、数限りない女性だった。
「じゃあ俺書いたやつ出してくるよ?」
希望するゼミを記入した用紙を持って立ち上がる。
「阿部ちゃんも同じゼミ?」
「うん。俺は大学院の話聞けるゼミが良いから、一緒。」
「そっか。」
翔太は少しだけ安心したように微笑んだ。
‥‥
「ちょっと退いて、見えない。」
ゼミ生の発表が貼り出されているボードの前にはそこそこの人だかりがある。
最近はもう話しかけられはしないものの、明らかにみんなの視線を集めている翔太が、
ボードの前で友達に何かを訴えている女子に向かってイライラしながら言う。
『あ、すみませんっ』
チラッと顔をあげると、あ。みたいな顔した。
「何」
『あ、なんか見たことあるけど誰だっけって。』
「は?」
『わ、すみませんっ』
通常なら、ここで顔が赤くなったりする女子が多いけど、まったく顔色が変わらない。
珍しいな。あれはさすがに演技じゃないと思う。
「翔太。辞めな。すみません、こいつ人見知りで。」
翔太をなだめて、頭を代わりに下げると、女子が軽く会釈をした。
『誰やっけ‥』
「渡辺翔太じゃない?雪坂大学名物。」
『ご当地キャラみたいな?』
背中に聞こえる声に、
本当に翔太のこと知らなかったんだなあと思った。
ご当地キャラって‥!笑
俺は。
俺はね、
ただ、翔太に幸せになってほしい。
いつか大事な人に巡り会えるはず。
‥そう思っている。
だから。
ゼミに入って再び顔を合わせた、柳Aさんが気になっていた。
肩かからない切りっぱなしボブ。
目がくりっと黒目がちで、綺麗に弧を描いた唇。
少し低い身長。
独特な、おしゃれ。(たぶん古着系?)
見た目からは想像つかないくらい関西弁。
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作者名:rinao | 作成日時:2024年3月1日 9時