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『ん？』
背を向けて焼きそばの準備をしていたわたしは、振り返って、まだ阿部ちゃんがいてびっくりする。
「てか、何も聞かないんだ？」
『え、何が？』
「翔太のこと。」
これまでのふわっとした喋りが、少し棘のある雰囲気になったのを感じた。
急に空気が張り詰めたみたいになって、わたしと阿部ちゃんは目を合わせたまま。
初日、メンバー発表を見た時に、翔太と一緒にいたのが阿部ちゃんで。
研究室に翔太と来たのも阿部ちゃんやった。
多分、翔太のこれまでの噂のことや、置かれている現状を誰よりも隣で見てきたんだろう。
『‥うーん。
‥気になることは本人に聞く、かな。』
あればね。と、絞り出すように。でも震える声がバレないように言う。
所詮又聞き。噂と一緒になってしまうから。
驚いた表情を見せた阿部ちゃん。
「そっか。
ごめんね、邪魔して。お風呂行くわ〜。」
『うん。』
またふわりとあったかい空気に戻ったけど、
『‥』
少しスーっと背筋が寒くなって、心臓がバクバクしていた。
わたしは今、何を見られて、何を品定めされたんやろうか。
翔太になにか危害を加えるかもしれないと思っているんだろうか、
阿部ちゃんの発言の真意がわからない。
渡辺翔太という人物と友達になることすら、大変なことなのでは？と思った。
「ただいま。あれ、みんなは？」
「よいしょっ、と。」
『お、おかえり、舘さん、照、ありがとう。みんなはお風呂とか、そんな感じ。』
「どした？なんかあった？」
照は場の空気の変化を読むのがうまいらしく。
『あ、いや、何もないで。きゅうりの浅漬け作ってた。』
「おーっ、お、俺はきゅうり苦手だけど‥」
『そうなん？！わたしも！』
なんであんなに青い味するん？！と、思い出すだけでべーっとなる。
その表情に照も大きく頷いていて、
見た目は強面だけど、すごく可愛かった。
「えっ、なのに作ってくれたの？ありがと。」
『舘さんは食べれる？』
「うん。結構好き。」
『よかった。』
わたしが変な顔をしていたやろうけど、流してくれたみたいで、他愛もない話がありがたかった。
「じゃあ照はお風呂行く？俺は肉の下ごしらえしようかな。」
『舘さん、料理もできるんっ。』
作業も器用にこなしていたし多才や。
「バイトはイタリアンの厨房してる。」
『すごいっ！』
ふたりのおかげで、落ち着くことができた。
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作者名：rinao | 作成日時：2024年3月1日 9時
