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帽子を深く被り、座ってしまえば周りからは渡辺翔太ということは気づかれなくなったようだ。
黒いロンTに黒のスキニー。シンプルなんだけど、それが洗練されたおしゃれにしか見えない。
『‥えーと、とりあえず事情どうぞ。』
よくわからないこの状況、多分困ってきたんだろうと思ったけど。
「‥昼ご飯忘れて。学食来たら思ったより騒ぎになって。」
『なるほど。阿部ちゃんは?』
「センター行ってる。」
『あぁ。そうなんや。パンあるで。いる?』
「‥え、いいの?」
余程お腹が空いているのか、ちょっと嬉しそうな表情。
『朝のだからまだ新鮮なはず。』
「朝だったら新鮮ではないだろ。」
『そう思うなら食べんな。』
「待て待て待て、
知り合い?!」
あ、そうだった。
おハルがびっくりした表情で私たちを交互に見る。
『かなり築浅やで。』
「家なら新築だな。」
「いや、家の例えとかいいから。」
『ゼミ一緒で。』
「そう。」
「めっちゃびっくりしたわ‥。」
『やろ、わたしも。
あ、こちらおハル。友達。
こちら渡辺翔太。知り合い。』
一応ふたりを紹介する。これと言って、言う内容はないんだけど。
「俺は知り合いかよ。」
『正味、まだ何でもないやろ。』
知り合いくらいで勘弁してくれ。
「なんかよくわからん、状況が。
まあAは、コミュ強って感じだからね。」
そう理解するしかないか、とおハルが頑張って飲み込もうとしながら、いまいち納得できていない様子。
『いやただ関西人なだけやで。』
「とりあえずさあ、渡辺。」
急に渡辺に話しかけるから、肩が大きく揺れてる。
「何?」
「Aは誰よりも良い子なんで、
何が原因でも泣かせたり迷惑かけたりしないでね。」
腕を組んで、初対面の渡辺に淡々と言う。
『おハル』
嬉しい、けど、そんなこと言ったら渡辺翔太が発動するんじゃ?!と、恐る恐る隣を見る。
深く被ったバケットハットを目線の位置まであげる。
「‥わかった。肝に銘じとく。」
『‥?!』
おハルは満足そうで、
今度はわたしが理解に苦しんでいた。
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作者名:rinao | 作成日時:2024年3月1日 9時