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学内を歩く。
今日は一限目からフルで授業があって、ほんまに疲弊する。
「Aー、こっちこっち。」
『おハル〜！あーもう癒やされてる、マイナスイオンやばい！』
しかもこの席！
「はいはい、何食べるの？」
『カツ丼。』
「ガッツリー」
『食べなきゃやってけないから』
食堂の横にあるソファ席。
いつもはいっぱいだけど、お昼前から授業がないおハルが場所を確保してくれていた。
『まじで月曜日にこの席座れてるとか、天国やなぁあ』
寝転べるしー！と、喜びが爆発する。
「はやくカツ丼買ってきな。」
『はーい。』
おハルにキレられて、食券を買いに列に並ぶ。
そこで、
ひゃああっ！みたいな、
小さな悲鳴？のような変な声が聞こえたので、みんなと同じく音の方向を見た。
あ。翔太。
通常通り？の、スンッとした表情。
あら、今日はひとりか。
女子がたまに黄色い悲鳴をあげて、ヒソヒソ話す。スマホを向けたような人もちらほらいて、
あー。なんか翔太ではなく、渡辺翔太。だ。
わたしは被っていたバケットハットをグッと被り直した。
この光景を見ると、金曜日の夜の出来事は現実じゃなくて勘違いやったような気分。
寝て、起きても、特に連絡する関係でもなく。
土日のバイト終わりもちょっと緊張したけど、ドアの外に翔太の姿はなかった。
「はい、おまたせ。カツ丼セットねー」
おばちゃんの声で我に返り、
『ありがとう。』
受けとると慎重に、席に戻る。
「渡辺翔太も学食とか来るんだね。」
今、いた。と、おハルが言う。
『えっ、ああ。ね。あ、カツ丼うまっ』
「こないだも言ってなかった？」
『うん、いつも通りうまい。』
「変わらない味ね。」
いつもと同じって案外難しいからなー。と、おばちゃんの変わらないカツ丼を眺めていた。
『ん？！』
先程被り直したバケットハットが浮く感じがして、上を見る。
『‥へ？』
「‥ちょっと寄って。」
し、翔太‥？
理解は追いついていないものの、
わたしは言う通りに少しスペースを開ける。
「‥え、何事？」
『いや、わたしが聞きたいけど。』
小声で話す。多分、只事ではない。
そして、おハルの問にはわたしも答えられない。
なぜなら、
当たり前みたいにわたしのバケットハットを被って、
横に座った翔太に、まあまあ困惑しているから。
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作者名：rinao | 作成日時：2024年3月1日 9時
