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「おまえんちどこ」
飲み始めて小一時間経った頃、少し眠そうな翔太がそう聞いたので、わたしは木の後ろ側を指さした。
『あれ。』
「あれ？」
3階建てのアパートの303。そこまでは言わんかったけど。
『うん。集合場所ここでよかったよ、すぐ帰れるし。』
「ひとり暮らし？」
『うん。そうそう。バイトと大学の往復だよね。だからゼミ合宿とか楽しみ。』
「ふーん。」
まあ、興味ないわな。
『なんかめっちゃ寒くなってきてない？』
自分のスマホを確認する。9℃。そりゃ身体も冷えてくる。
なんか出会ってから10日も経ってないのに、今日だけで5人格くらいの翔太を見ている気分。
「なんで雪坂大学来たの」
面接官なの？
『あぁ、関西から出てみたいなって。関西も大都市だし、大学受験くらいしか他のとこ行くチャンスないやん。』
「じゃあ就職であっち帰んの？」
『まだ決めてない。帰りたくない理由が出来たら帰らないやろな。』
「ふぅん。」
なんやこいつ。
「なあ。」
『ん？』
「なんで俺のことなんにも聞かないわけ？！」
『えっ、聞かれたいの？』
「いや、そういうわけじゃないけど。」
‥。
聞かれたいの？
口を尖らせている。
絶対酔っ払ってるやん。
『あんまり興味ない。』
「えっ」
『っていうのは嘘で。
出会って１ヶ月も経ってないやつが根掘り葉掘り聞いたら嫌やろ。そういう嫌な思いいっぱいしてるんちゃうん？
だったらわたしはやらない。』
「‥ふぅん。」
『なによ？』
「別に。」
全方位に威嚇していた翔太は
少し。ほんのすこーしだけ、多分？
心を開いてくれた
‥気がする。
『いよいよ眠いわ。帰ろ。』
「おう。」
じゃあ、またね。と、手を上げて反対方向に歩き出す。
あ、家そっちなんや。
全くもって不思議な夜。
風もなくて、
木とかたくさんあるのに、
無音で。
自分の足音と、翔太の小さくなってゆく足音だけが響いていた。
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作者名：rinao | 作成日時：2024年3月1日 9時
