6 ページ6
.
思い返す4日前の記憶。
そもそもだけど。
わたし、佐久間さんの顔を忘れてる。
…たしか
帽子も深く被ってたし、
メガネもかけてた。
『服は…』
黒かったのかな、
なんかとにかく闇に紛れてた。
何となくだけど、全体的に周りから隠れているかのような印象だった。
『あ、でも。』
口が、
あや、口角か？
にっこりと笑った時、
きれいに上がるなーと、ぼんやりと思った記憶。
『ただいまー』
誰もいない家に帰宅。ただいまだけは言ってしまう。
古い洋館をリノベーションしているので、未だにオートロックではない扉。今どき珍しいんだけど、門がオートロックだからセキュリティ的に不安を感じたことはなかった。
『お風呂も沸かして〜』
朝切っておいたカレーの材料を出して、お風呂のスイッチも押す。
確かに、29歳になって恋人とか、自分が大切にできる人がいたら嬉しいなあと思う。
でもなあ、なかなか…
この一人暮らしも最高。
ポツポツ‥
『雨、あ！洗濯！』
ガラガラ！と勢いよくベランダの窓を開き、洗濯物たちを回収する。
鉛色の雲からすでに大粒の雨が降ってきている。
『早く帰ってきてよかったー‥』
最近よくあるゲリラ豪雨というやつなのか、一瞬でバケツをひっくり返したような雨になっている。
ん？
今、なんか聞こえた？
外かな？
玄関の方に移動して、外に耳をすましてみる。
“あー、まじでない、え…嘘”
“え〜どうしよ、俺の鍵〜、せっかくのオフなのにー！”
ガチャ
『あ、』
「え。」
ドアに手をかけていたので、重みでドアを開けてしまった。
『え？！めっちゃ濡れてるじゃないですか！』
目の前で鍵を探していると思われる佐久間さんは、服が倍の重さになってそうなくらいずぶ濡れだ。
「あ、あぁ、雨凄くて！」
笑顔いらんから。
『凄くて！じゃなくて！鍵ないんですか？！』
「え、なんで知ってるの？！」
少し警戒したような言い方に変わる。
『いや、めっちゃ独り言でかいですよ。嫌じゃなかったら入ってください。』
「え、でも」
周りをキョロキョロ見る。
『風邪ひいちゃいます。彼女さんとかいるなら後からわたしがちゃんと説明しますから。』
「あ、うん…じゃあ、お言葉に甘えて…お邪魔します」
『はい、どうぞ。』
なんか、すごいコソコソ入ってきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 182人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：rinao | 作成日時：2024年1月19日 5時
