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沈黙を破ったのは阿部さんの方だった。
「あの〜、佐久間のこととか実は前から知ってました？」
ちょっと上目遣いの阿部さんは、さっくんと同じような、オーラがあって、とてもきれいな顔立ちで、こうやってイケてる人にイケてる人が集まってくるのかー、とか感動しながら見ていた。
その感動とは裏腹に、
全然笑ってないのに笑顔の阿部さんの言葉には、明らかに疑いの気持ちが乗っているのがわかる。
『前？』
31日深夜からの知り合いで。
こんなピンク頭で目立つ人がいたらさすがに覚えていると思う。
「…はい。実は知ってるけど知らないふりしてます？」
これは何を意味するんだろう。
今、わたしの感情を言うとしたら
間違いなく、カチーン。だ。
『知らないふりをしてたら私になんか得ありますか？』
「え」
『だって、わたしに疑いがかかってるということですよね？わたしにメリットがあるってことですか？』
「い、いや」
社会人になって早7年。
理不尽なことは山程あったけど、怒りに任せて何か言ってしまうことはなかった。
割と理性的な方だと思う。
『別に正直さっくんがどこの誰だろうとどうでもいいです。
大統領とか？ならちょっと悩みますけど。うちのセキュリティじゃあちょっとまずそうだし。
ただの隣人です。今日友達に昇格しましたけど、付き合いをやめろと言われたらそうします。』
阿部さんには阿部さんたちの事情がありそうだ。
頭ではわかった。多分なんかしらの人で、一般ピーポーとの交流って大変なんだと思う。
でも。
「そんなつもりではないんだけど」
「服きれいになってたー！ありがとう、あ、脱いだ服だけど」
あれあれ？と、さっきとは何かが違う雰囲気を感じ取ってキョロキョロするさっくん。
『あー、持って帰ってもらって大丈夫ですよ。』
「え？！ほんとに？」
『それBreathの新作なんですけど、まだ売ってないですから。良ければどうぞ。』
「ありがとう〜！大切にする！」
『じゃあ鍵も見つかったし、解散ですねっ』
「あ、あの『阿部さんもわざわざありがとうございましたっ』
阿部さんの言葉を遮る。
「Aちゃん、連絡先」
『なんかあったらインターフォンで。忙しくていない日もありますけど。』
「あ、え？う、うん」
『では！おやすみなさいっ』
とにかくこの場を早く切り上げたほうがいい。
それが平和的解決になるんだ。
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作者名：rinao | 作成日時：2024年1月19日 5時
