1 Your side. ページ1
年の瀬の夜。
当たり前だけど、なんだかみんな浮ついた感じの空気が漂っている。
「『もーこいなんてしないなんてぇぇぇええ♪』」
「ストーップ！」
ピッ！と音を立てると消される曲。
急によく知らない若手の子が流行りの曲を紹介する映像に画面が切り替わる。
「あ、ちょっと麗ちゃんっ！」
さっきまで方を組んで歌っていた同期入社のふっかこと深澤辰哉が名残惜しそうに声を出す。
「A」
『は、はい！』
「あんたねぇ！もう恋なんてしないなんて、じゃないのよ！今日で何歳になりましたか？」
『あー、えーと、29に、なりました。』
「失恋ならいい！まだね？
失恋？いやいや、恋もしてません、恋愛もしてません！かといって？
推しがいてオタクやってるわけでもありません。仕事、家、仕事、家。で？休日は？」
『あー、寝てる、かな。あ！たまに喫茶店っ！マスターが独特な雰囲気で』
「どうなってんの！29になりました！！ちょっとそろそろ考えよう！人生！なあ！」
「ちょっと！麗ちゃん飲み過ぎじゃない？AにはAの人生があるんだから〜」
「黙りなさい？無駄色男深澤。あんたははやくギャーギャーうるさい外野を黙らせてあたしたちに平和をもたらしなさい？」
「す、すみません…」
『ふっか、ありがとう。麗ちゃんも心配ありがとう、いやほんとに』
飲むといつものスーパークールビューティ、THE高嶺の花がなくなってめちゃくちゃ説経節の安達 麗華(あだち れいか)と
そんな麗ちゃんと私の同期で、一瞬かっこいい深澤。入社したらみんなふっかを通る。とりあえずふっか好きになっちゃえ！みたいな。
優しいし、とにかく気遣いのできる男。
そして、ふたりの間で普通の看板を背負って歩く私。
働いている下着メーカーの入社式で横並びだった3人。他にもたくさんいる同期の中で、本社の同じフロアにて働いている。
仲の良い同期や職場で、いつも可愛い下着に囲まれて、幸せすぎて気づいたら今日。
今、0時23分。
29歳になった。
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作者名：rinao | 作成日時：2024年1月19日 5時
