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第三十話 齟齬 ページ33





「拡張術式、か。確かにお前にしかない強みなんだろうけど、術式のセンスも呪力量も大したことがない、下等だ」

『……っく、ぅ』



呪力は、負の感情だ。
感情のコントロールこそ、呪力のコントロールとなる。

今の僕には、それが出来ない。
だから、ただでさえ格上の相手とまともに戦うことが出来ない。


『(朽、朽、朽、くちる……は、駄目だ、今の()じゃ、扱いきれない、良を殺しかねない……!……でも、)』

「いい加減に呪術師なんてやめろ。他の別家に世話になって、また今までと同じように役割を全うすればいいだろ」

『(……でも、……?ちがう、なんで、良を殺すことに……躊躇って……、っ?)』

「それが嫌ならここで死ね。次期当主として、俺が責任をもって殺してやる」


効果結晶。
生得術式を完璧に受け継ぐことが出来た者のみが使用出来る術式の一種。
その中でも、【(さわり)】と呼ばれる結晶は、体内に取り込むことで毒の効果が発動する。

呪力を込めて宙へ浮かせて、同じく呪力で発射する。
そうすれば勢いは凄まじいもので、攻撃を避けきれず、結晶の欠片が体内に侵入したのだった。


『(動きを、封じる毒……恐らく、殺傷力は、ない)』


こいつは本気で僕を殺す気だ。
でも、僕は、良を殺す気なんて微塵もない。


『(おかしい、そんなの、そんなわけ、あるはず……ない、のに)』


朽を使うのが怖い。
今の僕に扱いきれないかもしれないこと。

それに、先の任務で、朽が一般人を殺したこと。



『(なんで……僕が、)』

『(他人の生死に……怯えてる?)』



鋭い鋒がこちらへ向いた。
死を覚悟するのは、二度目だった。









「動くな」



呪いの宿った言葉が、目の前の男の耳に届く。
その途端、振り下ろされるはずだった刀の動きが止まった。


「真希の見込みじゃ、こっちは兄弟だし、相手は良だから後回しでいいと思ってたんだが……だいぶ危なかったな?」

『パンダ、くん……』

「高菜?」

『へいき、……たぶん』


パンダくん、棘くん、それから、ボロボロの恵くん。
恵くんの方も相当苦戦したのだろう、フラフラだった。


「何やってんですか、良さん」

「……事情を説明する必要があるか?間違ったことをしたこいつを、俺が始末しようとしているだけだ」

「殺す気でやってましたよね、そこまでする必要あったんですか?」



本当に、面影も全くない。
こんな冷たい瞳、一度だって見たことがなかった。

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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai  
作成日時:2021年2月20日 21時

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