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第二十二話 覆水 ページ25

「……先生、は」

『死んでる。他の生徒たちも、床に転がってるのは全部死体。あまり見ない方がいいんじゃない』

「なんで……?先輩は助けに来てくれたんじゃないんですか!?どうして、どうして先生たちが死ななきゃならなかったんだ!?」

『……』


非難の声。
どこまでも同じだ。

あの時と。

僕が、こうなったあの日と全く同じ。


『知らないよ。僕を責めて死体が生き返るならどうぞ勝手に。そこでじっと睨みつけていれば?』

「……そんなの……っ」

『体育館に、避難。………死にたくなければね』


足を進める。
この辺りに呪霊の気配はない。
グラウンド以外に呪霊はもう居ないだろう。


「先輩!」

『……、』


もう振り返らない。
その言葉に振り返る気は、無い。


「助けてくれて、ありがとう……ございます、っ!」


涙でぐちゃぐちゃの声で、数人からの感謝の声が背中に投げられた。

足が止まった。

だけど、すぐに進み始める。

喉奥がギュッ閉まって、指先が震えた。
それでも、僕は絶対に振り返らなかった。


振り返ったって、あの日僕が欲しかった言葉は、何処にも見当たらないから。



『そんな言葉、……もう遅い』









校舎を出て、体育館へ向かうまでの道。
二十体を優に超える呪霊が彷徨いていた。


「ひ……っ」

『……多いな』


朽をしまったのは正直痛手だった。
僕が感情的になって動きを封じてしまったのは明らかに失敗だったが……それでもやはり、アイツを使うのはどちらにせよ避けたかった。

アイツの力を借りれば借りるほど、自分の弱さが露呈していくようだったから。


『……真っ直ぐ走って。コイツらは僕が狩る』

「花厳先輩……」

『君らには傷一つ付けさせない。全員を守れなかったお詫びと……、』


“さっきの言葉のお礼に”。

喉まで出かかった言葉を、何とか抑え込む。


『さ、行って』


……そんなものは、無いはずなんだ。
呪われている僕は、人に感謝される資格なんてない。

だから、思い上がる訳にはいかない。
感謝の言葉を、そのままに受け取ってはいけない。


花厳愛という人間は、その生きる指針は、あくまでも、自分のためでなければならない。




『(って、言い聞かせなきゃ、やってらんないんだよね)』


パン、と手を合わせ、手のひらから呪具を生成する。
呪霊の大半は三級以下の雑魚だが、中には一級相当の物もいる。
僕の実力じゃ、やや不利ってところだが。




『……相手してやるよ』



第二十三話 卒爾→←第二十一話 不憫



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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai  
作成日時:2021年2月20日 21時

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