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第五十九話 友人だから ページ10

■□



「自分の話をしなさすぎ」
「葛原でももっとちゃんと話したぞ?」
『黒歴史暴露の道連れにさせてもらうね、伏黒くん』

恐らくこの呪いの手順はこうだ。
夜に、八十八橋の下から足を踏み入れること。
思った通り伏黒くんは一人でそれを実践しようとしていて、私達はその隣に立った。

「別に何でも話してくれとは言わねぇけどさ。せめて頼れよ、友達だろ」

「……津美紀は寝たきりだ。この八十八橋の呪いは被呪者の前にだけ現れる……本人が申告できない以上いつ呪い殺されるか分からない」
「___だから、今すぐ祓いたい」

確かに、何でもは話さなかったけれど。
虎杖くんに野薔薇ちゃん、二人のおかげで心を開いてくれてはいるのかもしれない。
私一人じゃ、きっと無理だったろう。

『伏黒くん、一つ』
「?」
『言っておきたいことが。……一年前のあの事件、君は何も出来なかったと悔やんでしまったかもしれないけれど』

『君は私にとって一番尊敬できる呪術師の先輩だし、一番最初の友人なんだよ』

君にとって私がどうなのかなんて知らないけどね。
そう言って笑えば、君は目を丸くした。

峡谷下の浅瀬の川を跨ぐ。
陰湿な空気の呪いが、辺りに充満した。

「……葛原」
『ほい?』
「俺が後悔したのは、お前に対してだよ」
『……』

同級生を助けられなかったからでも、私をイクチから解放できなかったからでも、多分無くて。
だとしたら、それは。

「お前が、理由を見つけてしまったこと( 、、、、、、、、、、、、、)にだけ、今も後悔してる」


足元に転がる、少年の死体を思い出した。
手のひらに生温く赤い液体がこびりついて、吐き気がする程に生々しい匂いがした。



『……祓おうか』
「あぁ」


少しだけ、腑に落ちた。
気が晴れたようで晴れなかった一年前のことを思い出して、それが何故なのか。

今更ながらに理解した。




______私はずっと、己に囚われているのだ。




己の心のままに生きると、そう決めたあの日から。
逃げない理由を、正当に命を絶てる理由を、偽善者の如く人を救う理由を。
沢山の理由が、できてしまったから。



『(君はそれが、悲しいのか)』




あの引退式の日、とても偶然に出会えたあの瞬間。
今よりもずっと人間らしかった私を知っているから、君は今を嘆くのだ。


『(ならいつか、私を引き上げてくれ)』


全部が終わったその時に。
私を、あの頃みたいに。

それは君にしか出来ないことだと、そんな気がするから。

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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai  
作成日時:2022年3月18日 8時

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