第五十九話 友人だから ページ10
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「自分の話をしなさすぎ」
「葛原でももっとちゃんと話したぞ?」
『黒歴史暴露の道連れにさせてもらうね、伏黒くん』
恐らくこの呪いの手順はこうだ。
夜に、八十八橋の下から足を踏み入れること。
思った通り伏黒くんは一人でそれを実践しようとしていて、私達はその隣に立った。
「別に何でも話してくれとは言わねぇけどさ。せめて頼れよ、友達だろ」
「……津美紀は寝たきりだ。この八十八橋の呪いは被呪者の前にだけ現れる……本人が申告できない以上いつ呪い殺されるか分からない」
「___だから、今すぐ祓いたい」
確かに、何でもは話さなかったけれど。
虎杖くんに野薔薇ちゃん、二人のおかげで心を開いてくれてはいるのかもしれない。
私一人じゃ、きっと無理だったろう。
『伏黒くん、一つ』
「?」
『言っておきたいことが。……一年前のあの事件、君は何も出来なかったと悔やんでしまったかもしれないけれど』
『君は私にとって一番尊敬できる呪術師の先輩だし、一番最初の友人なんだよ』
君にとって私がどうなのかなんて知らないけどね。
そう言って笑えば、君は目を丸くした。
峡谷下の浅瀬の川を跨ぐ。
陰湿な空気の呪いが、辺りに充満した。
「……葛原」
『ほい?』
「俺が後悔したのは、お前に対してだよ」
『……』
同級生を助けられなかったからでも、私をイクチから解放できなかったからでも、多分無くて。
だとしたら、それは。
「お前が、
足元に転がる、少年の死体を思い出した。
手のひらに生温く赤い液体がこびりついて、吐き気がする程に生々しい匂いがした。
『……祓おうか』
「あぁ」
少しだけ、腑に落ちた。
気が晴れたようで晴れなかった一年前のことを思い出して、それが何故なのか。
今更ながらに理解した。
______私はずっと、己に囚われているのだ。
己の心のままに生きると、そう決めたあの日から。
逃げない理由を、正当に命を絶てる理由を、偽善者の如く人を救う理由を。
沢山の理由が、できてしまったから。
『(君はそれが、悲しいのか)』
あの引退式の日、とても偶然に出会えたあの瞬間。
今よりもずっと人間らしかった私を知っているから、君は今を嘆くのだ。
『(ならいつか、私を引き上げてくれ)』
全部が終わったその時に。
私を、あの頃みたいに。
それは君にしか出来ないことだと、そんな気がするから。
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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2022年3月18日 8時