限界オタクの倫理観で呪術師をやってみた２【呪術廻戦】 (ページ8)

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第五十七話　噛み合わない言葉ページ8

「イクチ。縛りを結ぼうか」
『(……縛り？)』

一歩前に出た五条先生が、余裕げな笑みを浮かべて蛇に話しかける。蛇はやはり何も言わないが、確かに彼の方を見た。

「彼女は君の力を自由勝手に使わない代わり、君は彼女をこれ以上呪わない……っていうのでどう？」

「具体的には、帳の中でしか術式を使えないようにする。それが今の彼女の実力で、君の術式を操れる限界だと見た」

大きな蛇が、のそりと動く。
地鳴りがして、周辺の木々をなぎ倒した。
だけど暴れている様子ではなくて、蛇はこちらに顔を近づけた。

「恵。Aに笛を渡して」
「！」

手渡された笛を受け取って、口元に運ぶ。
そのまま目一杯、息を吹き込んだ。
甲高い笛の音が辺りに響く。

真っ暗な、夜の闇に。

『イクチ』

「……縛りの完成だ」

＿＿＿＿＿こうして。
私とイクチ、あまりにも力の釣り合わない呪霊との契約が結ばれた。

イクチが笛に戻った瞬間夜は夕方になって、空を覆う暗い雲は消滅した。
何事も無かったみたいな空とは相反して、一部壊れた校舎が夢では無かったのだと示している。

気絶したチームメイトも、私が手を下した男の子も。

この夜の帳の中で起こった出来事を、無かったことにはできないのだ、と。

『(ううん、大丈夫)』

私は俯瞰していたわけでも、達観していたわけでもない。
逃げていただけだ。それは、きっと正しい選択じゃなかった。

だから向き合う。己の感情と向き合って、何よりも客観的に、呪いと、人と、向き合う。

あの男の子は理由ではない。きっかけだ。
私が今の自分として生きている、そうなろうとしたきっかけ。
死に際彼を呪うことは無いし、私の人生で、彼を占める割合は無に等しい。

「A」
『！……五条先生』

「高専に入学したいって話。一応掛け合っておくけど、親御さんの了承が必須になる。全寮制だから説得しておいてね、拗れ気味の家庭らしいけど」
『……まぁ、気合いで頑張るか…』

ちょっとめんどくさいけど。
だからって手放しちゃうのは、これからの私のポリシーに反する。

「あと一つ、先生っぽいことを言っておきたかったんだよね」
『なに？』

「君にとって、君のものは全部が武器になる。後ろめたく思うことは何一つないんだよ」

過去も、感情も、他人も。
私を構成する全ては、武器である、と。

「………だから」

「君は何より、自分を大切にすることだ」

……先生。
私はいつだって、自分の心を、大切に生きているよ。