第五十四話 呪いの言葉 ページ5
□■
それから、走った。
校内を走り回った。
誰もいないかもしれなかったけど、誰かに会える気がして。
そして見かけたのは、例の男の子だった。
「く、ずはら……さん………」
いつもと違うのは、彼が助かる見込みの無いほどに大怪我をしていること。いつも笑顔な彼がボロボロに涙を流していること。恐怖で、いっぱいになっていること。
だけど私を呼ぶ声だけは、いつも通りだった。
_____蛇の呪いだ。
そしてこれはたぶん、私のせいだ。
本能的に理解した。
教師が誰もいないのも、彼はここにいるのも。
私が、殺したいくらいに憎んでいる人間しか、ここにはいないのだ。
私と縁を結んだイクチが、私の願いを叶えようとしているのだと。本能が叫んだ。
「ご、めん……おれ……」
「くる、しい……たすけて………」
呪いの言葉だった。
恐怖に満ちた呪いの言葉。
今まで彼にかけられた言葉もそう。
自分を諦めた自分に掛ける、優しい言葉は私にとって呪いだった。
だから私は君が嫌いだった。
君はきっと、容姿以外のどこかから、私を好きだっただろうけど。
『殺したら、いい?』
その声は聞いたことがないくらいに冷たかった。
私の手には伏黒くんから渡された護身用の呪具があった。
付け焼き刃だろうが、これで呪いを倒せと言われた。
「きみに、なら…………」
君は、私にとっての呪いだ。
くずはら、さん。
きみを、おもってのこと、なんて、なんにもできなかった、けど。
おれは、きみのおもう、きみがしたいことを、してほしい。
おれのことなんて、なまえなんて、わすれたって、かまわないから。
目の前で倒れていた男の子は、少しずつ体温を失っていった。
私が手にした、この呪いのせいで。
『……約束、させて』
『逃げたり、しないから』
『君が大事にしたものだけは、誰にも否定させないって』
この約束も、宣言も、君のものじゃない。
私の、私のための、私だけのもの。
そうすればもう君を呪わないはずだ。
名前も知らない親切な少年。
君のことなんて、やっぱり知らない。
____君にとっての損って何?
知り合って間もない男が、失礼極まりなく問いかけた。
今ならハッキリ言える。
私に損は無いし、得は無いと。
『どうでもいいとめんどくさいは、もう辞めだ』
偏っていて、矛盾していて、自己満足のそれで構わない。
私の思う正解を、私が勝手に選んでやろう。
全部、私のために。
192人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2022年3月18日 8時