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第六十五話 和解を繋ぐ ページ16

人の家を訪問するにはやや迷惑な時間帯。
新田さんが車に置いていたパーカーを借りて、血の飛んでいないスカートはそのまま。
塞がった傷口のおかげでほとんど怪我をしていないと同じような状態の自分には、多少の疲労感が乗っかかったくらいだった。

橋の上に駐車された車から距離がひらいて、歩き慣れた道の上ゆっくりと足を進める。
通学路ってやつ。私の嫌な記憶に、嫌にこびりついている道順。

さっさと高専に戻るべきはずの重傷の伏黒くんから、実家に顔を出せと睨みつけられたのは数分前の話。
新田さんに今回の出来事を報告してそろそろ帰るかと全員の意識がそちらへ向いた頃、なんの前触れもなく彼が口にしたのだった。

『(いや、まぁ、そりゃそうなんだろうけど)』

私の異変を察知した君が、ここでそれを口にしないはずが無かった。
所謂この変化は、生死にすら関わるものだと思うから。


ぐるぐると考え込んでいればあっという間に見慣れた一軒家に辿り着いて、私は門の前で立ち尽くす。
この時間じゃ流石に父親もいるだろうか。昨晩の仕事の具合にもよるだろうけれど。

震える指でチャイムを押した。
怯えとはまた違う感情を抱えたままに。



「……え、A?」


モニター越しの声は母のもので、私は居心地悪く黒い電子機器から目を逸らす。
何も言えなくて、ただ時が過ぎるのを待つ。

「お父さん、Aが」
『はっ?ちょっとやめてよ、呼ばなくていいって!近くに寄ったから来ただけで……』

ガタガタと物音がして、ぐちゃぐちゃの思考を整えるより先に目の前の扉が開いた。
焦燥の詰まった瞳とかち合う。

『(なに、それ……)』


そのあと紡がれた父親の言葉は、思い返したくもなくて。
ただ私の中で呼ばれることが当たり前になりかけた名前を、聞き慣れない声が呼んで。

言われたこともないおかえりを、為す術なく受け取った自分がいた。



なんてどうでもいい話。
居なくならなきゃ分かんないの、だったら。
もし私が死んじゃってたら、どんな顔したの。



何も知らないまま、少しずつ記憶から消してくれるの?





□■



「アンタにしては珍しくお節介焼いたわね」
「五条先生から言われてんだよ」
「葛原のお節介焼けって?」
「違ぇよ」

何ヶ月か前の言葉。
私の知らないところで、君が受け取った約束にも満たないそれは守る必要も無いような言葉だったのだと思う。



“恵。Aの良き理解者になってあげなよ”


きっとそれは、あの人の気まぐれだ。

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作者名:リナ | 作者ホームページ:http://uranai  
作成日時:2022年3月18日 8時

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