限界オタクの倫理観で呪術師をやってみた２【呪術廻戦】 (ページ13)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:8,739 hit

第六十二話　違える感謝ページ13

これでも一瞬だった。
三十秒も経っていないと思う。
情けない、分かってる。
一年の中じゃ、断トツで私が最弱だし。

相も変わらず不快な笑みを浮かべた呪霊が寝転がった私の腹部を踏みつけて、ギチギチと音がする。
嫌な記憶しか思い起こさない血の匂いが、全ての感覚を麻痺させるようだった。
激痛を通り越して、痛みすら消えたよう。

「布瑠部＿＿……」

数メートル向こうから聞き慣れた声がした。
あぁ、君の切り札だ。私と大差ない、それ。
私が死にそうだからか？そんな怖い顔をして拳を構えて。
伏黒くんは、ずっとそうだ。

『っく、はは、』
「くず、はら」
『……笑いなよ、伏黒くん』

何かの引き金のように思う。
プツンと切れた。音がした。

「やめだ」

にかりと笑う彼に思わずつられて口角が上がった。
ぼやけた視界で良くは分からないけれど、きっと。

目の前にいた呪霊の警戒対象はとっくに彼で、その彼はゆらりと立ち上がって敵を見据える。

「やってやるよ！」

初めて見た、そんな顔。
でも何となく知っていた気もする。
この人はそういう人だって、そういう才だって。

「領域展開」

ぽつりと呟いた。
気の抜けそうな、マジ、という声。
きっと届かない。私のことももう視界にすらないだろう。
それでいい、だって、笑っているじゃないか。

周辺の岩壁が変形して、彼と呪霊の姿が消えた。
もうマトモには回らない頭で、だけど私は確かに勝利を確信していた。

数秒が経過する。
領域が解けて、余裕気な笑みを浮かべる呪霊。
その背後を貫いたのは、玉犬の爪だった。

「……疲れた」

伏黒くんがずさりと膝から崩れ落ちる。
その様子を地面に這いつくばったまま見つめていて、ぱちりと目が合った。

「大丈、夫、……なわけ、ねぇか」
『……伏黒くんほどじゃ、ないよ』

体は起き上がりそうにも無いけれど。
私は外傷がなかなかに酷いだろうが、彼は全身とんでもない疲労感がまとわりついていることだろう。
領域展開だとかいういわゆる無敵空間を作り上げたわけで、噂によれば簡単に成せる技ではないらしいから。

「お前の、声……で」
『へ』
「はっきり、見えたから」

ありがとな、と消え入りそうな声。
聞き慣れないそれを確かめるより先に目の前の彼が眠りへと落ちていった。
領域展開に達したのが私の言葉のおかげなんて、そんなことあるわけが無いのに。

だって君はしっかりと理解していて、それを掴むコツを己の中で見つけただけなのだ。