もう二度と ページ40
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「…今日は俺、そっち寄ってかないから。」
なんだかんだ、色々ありすぎて体は限界だ。
電車では3回ほど寝落ちしかけたが、ゆづが私の足の甲を踏んで起こしてくれた。
…起こしてくれた、で 良いんだろうか…。
『分かった。ご飯は?』
「適当に買って帰る」
『たまには良いだろうけど…。まさかうちに寄ってかない時っていつもそんな生活?』
そう聞くと、案の定 目をそらす。
嘘をつくことだって出来たはずだろうけれど、それをしないのは少しでも心を開いてくれていると思って良いのだろうか。
「料理は出来るけど。…そっちに行く時くらいしか機会ってねぇし、面倒」
『……なんか心配なんだよなぁ…。』
自分でも母親のようなことを言っている自覚はある。
けど、やっぱり店のものより手作りの方が、栄養バランスとかも考えられるし…
『ゆづもこっちで暮らせば良いのに』
「あのさ」
『……え、』
いつの日かと同じような感覚。
顔の距離がいつも以上に近い。
私の手首を、ぎゅっと掴んで。
「……それはつまり、男3人に囲まれて過ごしたいってことでいいか?」
スッと目を細めてそう言われては、咄嗟に首を振ってしまう。
なんて言うんだろうか。
惠さんは確かに男らしいとことか感じることはあるけど、流石に私をそういう相手にするわけないし、真夏さんには透さんがいる上に、正直鬱陶しいし男らしさより女子力を感じる節がある。
…だけど、ゆづは。
『……そういう、ことじゃない、から…』
頬が熱い。
きっと林檎みたいに赤いんだろう。
ゆづは、優しく手首を離す。
「あんまり言うなよ、そういうこと」
『ゆづくらいしか言わないし!』
「……だから、そういうの」
同い年だから、とか。
わたしには少し優しいから、とか。
そんなものでしか理由はないのだけれど、他の人よりゆづには心を許せていた。
「ご飯、今日は無理だけど今後は考えるよ。…それじゃ また明日」
『そっか。…ばいばい』
去っていく背中を見送り、事務所の扉を開けて階段を上る。
カン、カン、と足を段にあげるたび音が鳴る。
階段の途中にある窓からは、夜景がチラリと見えて。
“だから、君は、もう
『…………』
だから、私は。
『もう二度と、ゆづを苦しめたりなんてしない』
そんな覚悟を決めて。
家への扉を開いた。
『ただいま帰りました!』
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作者名:リナ@オリジナル小説垢 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2018年7月15日 12時