Saotoubo. (ページ8)

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｢もしも〜し｣

樹｢A、どうした？｣

｢例のやつですよ｣

ああ、あれね、あの例の。

樹｢今日はバイト休みだろ？｣

｢うん、なのにね、わざわざ新作の写真、送ってくれた｣

樹｢はっ、それだけか｣

｢それだけって…！私はこれだけでも嬉しいの！チョロくて悪かったね！｣

樹｢うん、お前チョロい。心配になるくらい、チョロい｣

｢樹がつるんでる女の子たちとはピュアさが違うからね、許してよ｣

樹｢今までよく変な男に引っかからなかったな｣

｢樹がいるから誰も近寄らなかったのよ、私に｣

樹｢俺のせいかよ！｣

Aは、京本さんが好きだ。

“これは私と樹の秘密なんだけど”

そう前置きしてから、好きな人が出来た、と告げられた。

出会って19年、一度もそんな話聞いたこと無かったのに、彗星の如く現れた彼。

Aのケーキ屋に行って厨房を覗いて見て、京本さんの美しさに驚いた。

マスクとコック帽をしてても分かる美しさ。

そうか、Aはああいうのが趣味なのか。
俺とは真逆だ。

｢樹は？今日は楽しかった？｣

樹｢ん〜、可愛かったけど、香水きつかったし、多分もう会わない｣

｢可愛いなんて一番大事な要素じゃないの？
てか、そんな判定厳しい樹と、19年間も隣に入れる私、奇跡じゃない？｣

樹｢いやお前、チョロくて危ないし。さっき自分でも言ってただろ、お前の貞操守ってるの俺だって｣

｢はぁ…確かに否めない…｣

どうして素直になれないんだろう。

本当の理由を言えないのも、平気なフリして京本さんの話を聞くのも、テキトーに女の子と遊んでるのも全部自分のエゴで。

俺は狡くて、最低だ。

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