.【赤】 ページ22
.
店を出た後、何となく外に居る気がせえへんくてすぐ部屋に戻って、ぼーっとした。
気づけば夕飯も食べてない。
突然電話を切ったのを謝ろうと、外の非常階段まで出て、しゃがみ込んだ。
「ごめん、さっき切ってもうて」
「ええけど、どしたん？」
「前、ちょっと言うたやんか、隣の」
「あー、ケーキ屋の看板娘？」
「それが、俺らのさ、CD買うてんのに会うてもうてさ」
「ええ、ついに？」
「いや、向こうは気づいてへんけど」
「ふーん」
「なんや」
「言えばええのに」
「はあ？」
「まあ、ええけど」
「言えるわけ無いやろ、向こうは黙ってんのに、自分、俺の音楽好きですよねとか」
ガタッと足音がした。
踊り場から顔を出したのは、いかにも戦慄した顔の雨宮さんやった。
驚いて俺の手からもタバコが落ちた。
「え、」
「雨宮さん、」
「……あの、タバコ、はい」
「どうも…。いや。それとちゃうくて、その」
「………………」
「なんでこんなとこ…
誰も使わへんやろって思うてたのに」
「…だ、ダイエット、と思って」
「ああ…そうなんや…」
「………はい、」
「あ、あの、とりあえず、隣どうぞ」
戦々恐々、地獄の諮問期間、スタート。
「……あの、すばるさん。
いつから、知ってました？」
「結構、最初言うか、その、始めっから」
「…え？」
「いや、内見面倒くさくて、友達、いやメンバー…ま、分かるか。」
「やすくん……」
「そ、ヤスに行ってもらって」
「え？マジですか？？」
「ほんま。
そん時に、ケーキ屋の前の花壇？に水やりながら俺らの曲、鼻歌で歌ってたバイトがいたって、嬉しそうに言われて。」
「…………ッ不覚……」
「そんなん、バイトやし、そこに住んでるわけないし。
かといって、それが凄い嫌とか思わへんくて。
……ま、そこに決めてん。
で、入居する日に大家さんに会ったら、あの、なんて言うんやろ、あのケーキ屋の服着てて。
別に聞いてないのに『ウチの娘が店手伝ってくれてるんですー渋谷さんの隣に住んでますー』て話してくれて、あーそうなんやー、この子が例の子なんやーって、」
「でもそれだけじゃ、別にすばるくんじゃなくて曲だけ知ってる…」
「その呼び方」
「え？」
「いや、大家さんに聞けば娘やし分かるんやろうけど、普通初対面の人、下の名前で呼ばへんやろ」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 103人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆうみ(プロフ) - りずさん» あー！確かに書いてみたいです！すばるさん目線多めとかだと面白いかもしれないですね！ (2019年9月29日 22時) (
レス) id: 23afaa0b1c (このIDを非表示/違反報告)
りず(プロフ) - 完結おつかれ様でした。おまけ的なので、その後の関係性とかも読んでみたいです。 (2019年9月29日 10時) (レス) id: 8a21356a9d (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみ(プロフ) - りぃさん» 頑張って更新しますのでよろしくお願いします！ (2019年9月23日 9時) (レス) id: 23afaa0b1c (このIDを非表示/違反報告)
りぃ(プロフ) - 文才がありすぎて頭の中に情景が浮かぶって本当にすごい事だと思う。大倉夫人も楽しみにしてます！ (2019年9月20日 22時) (レス) id: 59313af0bd (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみ(プロフ) - りぃさん» 宮野さんもめちゃくちゃ長いのに読んでいただけたんですね！私の書く話は後で読み返して自分がニヤッと出来る、というのが目標なので、その思いを共有していただけることが幸せです…。 (2019年9月20日 21時) (レス) id: 23afaa0b1c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆうみ | 作成日時：2019年8月25日 20時
