ep.4 ページ5
Mac side
「お父さん、なー聞いて」
「都合ええ時だけ言うな」
しつこく話しかけるセーラに言い返す。
セーラは、俺の態度に不満そうにしながら鏡の前で、その明るい金髪を気にしていた。
「染め直さんとあかん。だいぶ伸びたあ」
「そう？」
「パパはおっさんやから気づかへんねんな」
「取って付けたような『パパ』やめえ」
「やってえ、最近忘れてるんとちゃうかなって」
「忘れる訳ないよ」
書類の上だけの話。
やからそんなに意識せんでもええと俺は最初に言うた。
そのはずやねんけど、セーラは俺が『父親』であることをネタのように散々持ち出す。
飽き性なこの子の数少ないロングブーム。
そりゃあ、この子は大事で娘みたいなもんや。
やから引き取った。
でもこうやって揶揄われると恥ずかしい。
「そんな短い服、」
「ええやんか。」
鏡を見るのに飽きたらしく、一人掛けのソファで雑誌をめくっている。
レースの丈の短いワンピースから、白い足が堂々と覗く。
一応父親として注意してみるが、ソファに寝っ転がって投げ出された足は引っ込まへんかった。
下着みたいなその白い服に、不服そうな顔。
これを見ても誰も「エイトのセーラ」だとは気が付かへんやろうな。
店でのセーラはぶっきらぼうで、不愛想。
それに向こうの「ヤマモトのセーラ」とも違う。
あっちは微笑みの聖母やし。
エイトとヤマモトの客層は全然ちゃうから、同一人物とも気づかない人も多いやろう。
ただ今、この場所でのセーラはただの思春期の子供や。
服を着替えるように、顔を変えるセーラの大元がこれ。
そう思うと強く言う気になられへん。
「俺、寝るわ」
「じゃあ、また明日〜」
扉まで向かって振り向くと、背もたれ越しにひらひら振る手だけが見えて、俺は扉を閉めた。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
