ep.38 ページ39
Johnny Side
―――そして俺等はそれぞれの生活に戻った。
アーセナルはつめたい背中のまま、此処へ一人で帰って来た。
セーラの恋が、いや、アーセナルの片思いが終わった。
アーセナルはセーラを大切に思う余り、生殺しにしてしまった。
アーセナルは、もっと無口になった。
俺はマックから現住所を聞き出し、手紙を出した。
アーセナルの本心や今の現状、俺の気持ちなどを記してみたけれど、返信は俺が手紙を出してから半年後、便箋などはなく、ただ結婚写真だけが封筒に入っていた。
きっと寂れた町の写真館で撮ったであろうその写真には、生きてゆくのに向いていそうな、緊張した表情の青年と、見たことの無い安らかな笑顔のセーラが映っていた。
こんな簡単な幸せの為に、セーラは幾年も苦しみ続けてきたのか。
こんな簡単な幸せやったのに、アーセナルは気付けなかったのか。
つらすぎて、俺はその写真を誰にも見せずに焼いた。
セーラはAとして人生を取り戻し、太陽の下で微笑む道を選んだ。
アーセナルはセーラを我が手に取り戻すことが出来ずに、これからを生きていく。
苦しむ順番が回って来たんやろう。
セーラが苦しんだ分だけ、彼も苦しまなくてはならない。
純粋無垢な、彼が守り続けてきたセーラの真っ直ぐな思いを、受け止めずに逃げ続けてきたその分を。
この仕事をやらせたがらなかったのも、結婚したがらへんかったのも、みんなほんまはセーラの為やったんやろうと思う。
でも、そんなの、伝わる訳ない。
セーラが幸せになればなるほど、アーセナルは不幸になる。
それがあの頃のアーセナルは分かれへんかったんやな。
二人は似てるから、二人は一緒に幸せにならへんかったら、一人は不幸になるって。
マックも俺も、セーラの周辺を探ることをやめた。
俺らの間の重い空気は靄のように晴れることのないまま、また日々は進んだ。
……
やのに、どうして。
セーラは帰って来た。
怒りと悲しみで瞳を揺らしながら。
どうして。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
