ep.37 ページ38
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私はどの私も嫌い。
だからこそ、存在しなかった私を夢想してしまう。
愛したかったな、ほんまは。
全ての私を、愛してあげたかった。
全ての私を、愛してほしかった。
母に甘えたい私も
兄弟を大切に思う私も
冷たく不愛想な私も
静かな歌うたいの私も
銃を持った血塗れの私も
みんなみんな、愛し、愛されたかった。
でも、私は逃げ、平凡を愛するただのありふれた人間だけが残った。
「誰のモノにもなられへんし、誰のモノにもならへん」
そんな時間が嬉しく、幸せで、永遠の時間やった。
アーセナル。
今は遥か遠く、彼方へ離れてしまうあなたやけれど、その儚さ、刹那性、素っ気なさ、声、横顔を愛していました。
好きになったのは私、離れたのも私。
やけど、私はあなたのそばに居れて良かった。
決して想いの返って来る相手ではなかったけれど、最後に私を家族に引き戻そうとしてくれた。
それだけでいい。
嘘でも「愛してる」と言うてくれた、その優しさ。
その優しさは、一方では冷酷にも感じるあなたの特性やったけど、それでも最後に相応しい言葉やった。
私に「セーラ」という名前を付け、特別にしてくれたあなた。
今私は名前を捨て、あなたの元を去る。
泡沫の夢の中に、まだあなたは居る。
あの場所を守り、愛して、仕事をして欲しい。
自惚れではないけれど、あなたは幾日か過ぎたら、今夜のこのことはきっと「過去」にしてしまうやろうけど、私は一生過去にはならないという確信がある。
私は、つまり永久にセーラのまま。
この名前を半ば呪いのように、背中に刻まれた十字架の刺青のように背負っていく。
ごめんね、忘れられへんくて。
あなたのベッドの中で朝を迎え、私の香水の匂いをあなたの魂にまで到達させて、本当の意味であなたの所有物になりたかった。
今更すべてが遅すぎる。
愛していない私に、愛していると言わせたあなたの背後にあるものは知らない。
でもあまりに8人での日々が完璧やったから、この行動にその日々が関係してると言われても、私は驚かないな。
あなたは明日からも、完璧な始末屋で居てほしい。
紫煙をくゆらせ、美しい女たちを夜毎抱き、厭世的なその瞳で世界というものを見ていて欲しい。
誰よりも大切にしている家族を、守りながら、あの町の夜の帳の中で、静かに自分を信じていて欲しい。
私の願いはきっと叶えられる。
誰が忘れても、私が、あの哀れな「セーラ」を忘れない限り。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
