ep.34 ページ35
Arsenal Side
俺は、何を間違えた？
間違えたことが多すぎて、何も分からへん。
Aが置いていった香水が、どんどんその壜の容量が減っていって、俺にはそれが何処か砂時計のように思うていた。
タイムリミット。
猛烈に、今会わなくてはいけないと感じた。
「アーセナル…」
「…」
「どうして、来たの」
「もう間に合わへんか」
「………何の話」
分かってるはずやのに、セーラは俺を睨むように鋭く見た。
「海見に行こう」
陽は落ちて、何も見えない海辺を指して、セーラが呟いた。
「どうして、出てったん」
「アーセナルが、家族って言うたから」
「……うん」
「言うたから、あたしはもう一緒に居られへんって。それだけ」
電信柱の青白い明かりだけを頼りに、俺らは砂浜に下りた。
「家族やろ」
「あたしは、家族やない方がよかった」
「……」
「あたしはアーセナルのものになりたかった。
アーセナルも、あたしの物になって欲しかった。
それが叶わへんのなら、殺してほしかった」
セーラの足元の砂が、ゆっくり動いた。
「セーラ、」
「もうええんよ、終わったことやから。
あたしは全部を諦めて、捨てた。皆のことも。
……ごめんね。あたし…幸せになりたい」
「……ごめん」
「謝んないで、あたしが悪いん」
「………いや、俺ずっと解ってたのに、見ないふりした。
セーラが俺のこと好きやのを信じたら、いつか分かれへんその終わりを待つのが、怖かった」
「……あたしのこと、好きやった？」
「今も……愛してる」
「ほんまに？」
「…うん。当たり前や。やからこうやって来てん」
「一緒に、帰るつもり？」
「あそこには、皆居る。セーラも居らなあかん」
「………もう、今になったら全部夢みたい。
みんなで馬鹿みたいに笑って、穢い仕事して、また笑って」
「夢と違う」
「ううん。そうやの」
「どうして」
「やったら今、彼処に戻って、また婚姻届出して、今度こそ同じベッドで毎日寝て、人殺して……。
もう、出来へん。
あたしな、壊れたものの破片を集めて、繋ぎ直して、それで元通りになったってまた同じ日々を過ごす、そんな嘘付かれへん。
壊れたものは、壊れたもの」
.
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
