ep.26 ページ27
Johnny Side
セーラが居なくなって一年になる。
僕らはとことん調べて連れ戻したかったけれど、マックが待ったを掛けた。
マックが調べたところによると、分かったことは裏社会の人間と関わりがない、つまり事件性のない失踪やろうと解ったらしい。
やけど、本人意思なら無理に連れ戻すのは出来ない……マックはそう言うて、俺らには何を教えてくれへん。
マックは毎日辛そうで、セーラの話になると毎回泣く。
エースはずっと怒っている。
みんなさみしくて、悲しんだり怒ったり溜息をついたりするしかやることがない。
でも、アーセナルはあの日から、今までよりもっと無口になった。
離婚届に判を捺したあの瞬間から、まるで自らを人でなくしてしまったみたいに、自分の殻に閉じ籠もるようになった。
セーラの部屋は、あのまま残っている。
エースは思い出してしまうから全部捨てようと言うたけど、ジャッキーが嫌がった。
まあ声を上げたのがジャッキーやっただけで、俺らは皆、それらを捨てることなんて出来そうもなかった。
あの部屋から唯一なくなったものは、サブマシンガンと香水だけや。
俺は知っている。皆が寝静まった後、アーセナルがセーラのサブマシンガンを手入れしていること。
あと、アーセナルがセーラの使っていた香水を自分で持っていること。
セーラはわざと置いていったんやろうな。
アーセナルに見切りを付けたことの、何よりの証拠。
あの部屋のあのベッドから、セーラは自分の香水が香らないことを虚しいとよく言うていた。
今更、アーセナルが手にした所で、何の意味もない。
でも、俺らはこんなことになるまで、アーセナルがほんまに「妻」を愛していたことに誰も気付かれへんかった。
結局あの二人は両思いで、花火みたく重なり合って弾けてしまった。
マックが唯一俺らにこぼした証言は、失踪の当日、駅のホームで男と居るセーラを見たというもの。
俺らは色々考えて、アーセナルにはこのことを伝えないことを決めた。
真実としてこれは残酷すぎた。
あの多弁やったセーラが、紙一枚とデータの消去されたケータイだけを残して行ったことが寧ろ、状況を大いに物語っている気がした。
アーセナルの失踪を防ぐ為だった筈の婚姻がセーラ自身の喪失に繋がってしまった。
皮肉としか言いようがない。
逃げるのは皆アーセナルの方やと思うてたのに。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
