ep.14 ページ15
.
殺す、という言葉が人生で初めて一番近くに近づいた心地がした。
「ダイキは……そんな馬鹿やないって信じてる」
「言う訳、ないやないですか…この状況で…」
そう。とセーラさんは呟いた。
助手席に座る、その短い髪も横顔も眼も、何もかも僕の知らない人やった。
「ルカさんは、まだ気い失ってる？」
「はい、あの…まだです」
「え、お前、ルカってまさか」
突然ルカ、という名前にアーセナルさんが強く反応した。
何が問題なのだろう。
「おい、セーラ」
「せやで」
「お前……」
「……なんかルカさんが……どうかされたんですか」
言い争う二人に恐る恐る割って入ると、セーラさんは驚くべきことを口にした。
「ルカさん……いや、水野瑠夏は、私の母親なの」
「……え」
「本人は、私が自分の捨てた娘って知らないけど」
「え、ええ、……どういうことですか」
「水野瑠夏は高校生の時、双子を妊娠したけど、彼女は音大進学が決まってたから、その双子を極秘出産して、一人ひとり、別の施設の門の前に捨てたの」
「そんな……」
「……大丈夫。憎んでもないし、恨んでもない。
ただ…自分が何処から来たのか、誰から生まれたのか、何故ここにいるのか知りたくて、ずっと調べてたの。
そして、あの街でピアノを弾いていることが解った。
やから私は歌を歌うことを決めた。
………それだけの話。
まさかこんなことに、巻き込むことになるなんて思わへんかったけど。
失神してくれて良かった。
こんな自分を見せずに済んだから」
それだけの話。
そう言いながらも、セーラさんの声には少し涙が混じっていた。
「親探すなんて、やめろ言うたやろ。
あの女がお前のこと捨てへんかったら、……あんな思いせずに済んだのに」
「あの…」
「何や」
「さっき、セーラさん……双子とかって言うてましたよね」
「それや」
「え？」
「さっき言うた『あんな思い』てのはそれが原因やねん」
「……」
「セーラ、話してもええか」
「こんなとこも見られてもうたんやもん。
もう、何でもええわ」
アーセナルさんがこちらの後部座席に、ちらりと視線を寄越した。
「その女だけ、マンションに送ってく。
お前、今夜はEIGHTに泊まれ。
そこで話したる」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
