ep.12 ページ13
Daiki Side
僕がセーラさんと知り合って数カ月が過ぎた。
舞台を降りた彼女は、柔らかい雰囲気の美しいひとや。
僕はレストランやその楽屋に足繁く通った。
彼女とただ会いたく、話がしたかったから。
でもエイトには行く気になられへんかった。
僕はあまりに、そういった所に出入りするのに慣れてへんかったし、あの街はいつも何かが蠢いているように感じた。
何より、彼処での彼女を、見たくなかった。
僕の想像のクラブと、彼女がどうしても結びつかへん。
あんな微笑みを称えるひとが、そういう所で働いてるなんて理解を少し超えている。
でも彼処が彼女の家なのだ。
安心できる「父」と「夫」の居る家。
僕は聞いているそれらの話のことを考えると、そのアーセナルという人には、会いたくなかった。
僕の、好きな人を不幸にしながらも、同時に安寧を与えるそのひと。
僕が、その人になることはない事実を今はまだ解らないままで居りたかった。
そんなある夜。
僕はあんまり吃驚して声も出えへんかった。
だって君が、銃を抱えて僕らのバーに突撃してきたから。
……僕とルカさんはいつものように、お客さんの希望を聞きながらピアノとヴァイオリンを弾いていた。
丁度その時僕たちは「亡き王女のためのパヴァーヌ」を演奏していた。
そこに、突然空気を破るようにして、物々しい雰囲気の黒いスーツの二人組が入ってきて、天井に向かい一発、発砲した。
僕は最初、君やなんてちっとも気づかれへんかった。
一人は長髪を纏めた細身の男の人。
彼は奥の部屋へ走り去っていった。
客は口々に悲鳴を洩らし、グラスが割れる音があちこちから上がった。
僕とルカさんは顔を見合わせてピアノに背を付けるようにして寄り添った。
もう一人はスーツを着ていたけれど、どうやら女の人らしかった。
短い金髪がバーの暗闇に映えて、奇妙な高貴さがあった。
女の人はこちらをぐるりと一瞥すると、男の人を追って去っていった。
……何発かの銃声が響いた。
それを合図に、客たちが我先にと逃げ出し始めた。
出口に向かい走り、その混乱がテーブルのキャンドルが倒れた。
「ルカさん！ ど、どうしましょうか！」
「……逃げないと、あ、」
あの人たちが戻ってくる。
その前に逃げなくては。
しかし、その時にはもう火が広がり始めていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
