捌拾弐 ページ21
宗次郎side
神谷さん達に連れられ、着いたのは久しぶりとも感じる神谷道場。
「おかえりなさい!!」
高荷さんの声が庭に響く。
「恵ただいまー!」
Aの元気な声が僕の隣から聞こえ、高荷さんのもとへ走っていく。
「あっ…」
思わず一歩踏み出し、手を前に伸ばしてしまった。
相手が高荷さんということを思い出し、その手を慌てて下げた。
刀も持っていないAが、走ってどこかへ行くというのはどうしても抵抗がある。
もう安心していいはずなのに、どうしても癖で安心できない。
刀を持っていなければ、Aを守るものは何もない。
だから、一人で歩かせることはできない。
それが頭に住み着いて、つい起こしてしまった動作だった。
「まだ癖が抜けないでござるか?」
緋村さんが全てを見透かしたように僕に言った。
「そうですね…。もう戦いは終わったのに。」
緋村さんはふふっと笑って目をつぶり、空を見上げた。
「宗次郎。こうして耳を澄ましていても、今までのような銃声や刀のぶつかり合う音、怒鳴り声、爆発音は聞こえないでござろう?日本は…平和でござるよ。」
なぜか、その緋村さんの言葉と顔にじーんと来て目に涙が浮かんだ。
緋村さんはまだ目をつぶっているから気づいていない。
僕は必死に涙を堪え、笑顔を作る。
「…そうですね…」
それ以外何も言えないでずっと立っていると、緋村さんがゆっくりと目を開いた。
「さ、宗次郎とA。薫殿が風呂を準備してくれたでござるよ。」
「そうですか。じゃあ…僕が一番最初に入ろうかな。」
笑う緋村さんの横を通り過ぎようとした時、誰かが僕の肩に力強い圧力をかけてよろけた。
後ろを振り向くと、顔面血まみれの相楽さん。
「うわっ…」
思わず漏らした声に、相楽さんも反応した。
「うわっ…とは何だ。俺が一番最初に風呂に入る。ガキは後回しだ。お前とAと弥彦が最後だ。」
「ちよわっと何言ってるの!?左之助みたいな血まみれが先に入ったら、お風呂がどうなるか分かってるのよね?」
「うるせえな…」
それ以降何も言えなくなる相楽さん。
それをAが来てからかい始める。
それを見てみんなで笑いあった。
耳を澄ましても、笑い声しか聞こえない。
…平和が訪れたという実感が湧いた瞬間だった。
心に幸せが溢れて、涙をこらえて僕も笑った。
233人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キーさん(プロフ) - もう7年も前の作品だけど、いつか更新されることを願ってます! (2021年8月19日 16時) (レス) id: 1d2c287881 (このIDを非表示/違反報告)
╋雨降りジョーカー╋(プロフ) - 控えめに言って 神作品。作者さん凄すぎるわ...この作品は非の打ち所のないんだけど... (2018年10月17日 23時) (レス) id: 380c7fa183 (このIDを非表示/違反報告)
ユウ - とっっっても面白かったです! 楽しい時間をありがとうございました! (2016年12月20日 19時) (レス) id: 88676b10f6 (このIDを非表示/違反報告)
北山LOVE - チョー面白かった!宗次郎大好き! (2016年12月10日 4時) (レス) id: 2b9049c483 (このIDを非表示/違反報告)
さくら - めっちゃ面白かったです。宗次郎が剣心の味方なのもいいですね!ありがとうございました。。 (2016年7月3日 1時) (レス) id: c21e049532 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:青りんご | 作成日時:2014年12月21日 10時