るろうに剣心もう一つの伝説《瀬田宗次郎編》《京都大火編》《伝説の最後編》 (ページ13)

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弐什七ページ13

Aさんは目を閉じて、心の準備をしているらしい。

もう懲り懲りだよ。
こんな人に振り回されて、もう疲れた。

志々雄さんには申し訳ないけど、僕がここで殺す。

相手も承知の上だし、いいよね？

「覚悟できた。」

そう言って目を開けたA。

微笑んでいる。
こんな状況なのに、よくもまぁ笑っていられるものだ。

やっぱりこの人は変なんだ。

僕の気持ちを…変なふうにする。

僕が僕じゃなくなっていくような気がする。

もっと前なら、人なんて殺すのになんの躊躇いもなかったのに。

だけど今は、Aさんを殺そうとする僕の手が震えている。

僕の気持ちが邪魔をする。
Aさんを斬ることを、ずっと邪魔する。

前の僕なら…確実に、こんなことは簡単だったはず。

前の僕じゃなくちゃ、志々雄さんのそばにいられない…

早く前の僕にならなくちゃ…

笑って。
確かに戻ってきている感情を、笑顔で隠さなくちゃ。

さぁ早く、刀を抜かないと。

刀を抜いたら、構えて。

そしたら、そうだな…縮地を使って。

せめて、少しでも痛みを感じないで。

楽に死んでいって…

縮地で、Aさんの元へと走る。

「好きだよ…宗次郎…」

そうやって聞こえた。
あの少しで斬れるところだったのに。

寸前で峰打に変えてしまった。

僕も落ちぶれたなぁ…
結局は殺せなかった。

倒れるAさんを抱える。

また、Aさんの匂いがした。
その瞬間、抑えていた変な感情が溢れ出した。

Aさんと、どうしても離れたくない。

ずっとこのまま近くに置いておきたい。

殺さなくてよかった…

そんな感情が溢れて、喉が詰まる。

僕の涙が頬を伝っていた。
それを手で拭い、Aさんを背中に背負った。

じわじわと戻ってきている、僕の封印していた感情。

これが完全に戻った時、僕は最強ではなくなる。

僕が最強であるために必要なことは、縮地が使えることと…感情が欠落していること。

このままじゃ志々雄さんに捨てられる。

でも、もうそんなのはどうでもいい。

僕の大切なものは変わった。

志々雄さんじゃない。
強さじゃない。

Aさんだ。

僕の、世界で一番大切な人。

絶対に、この手で守るから…