【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ48)

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そんな様子を、私は治とスキマからチラリズムしていた。

『さてと……そろそろだね』

「嗚呼……奴は必ず干渉してくるよ」

そして、案の定。白鯨はコントロールを奪われ降下を開始した。

《白鯨操舵室》
「一体如何すれば……」

「如何なっている？それでは駄目なのか！」

「駄目だ、こっちの操作も受け付けない！もう時間が無い！何か手を考えないと皆が！」

「無駄じゃ」

入ってきたのはメルヴィルだった。

「外部から何者かが侵入し機関部制御を奪っておる」

「そんな！一体誰が……！」

メルヴィルはその言葉に何も言わなかった。恐らく特定できなかったのだろう。

「(此処まで来たのに……このままじゃ探偵社が、街の皆が……！)」

焦る敦の脳裏に探偵社の面々や街の人々の顔が過ぎる。
その時、通信を通して凛とした声が操舵室に響いた。

｛未だ方法はある｝

「この声……鏡花ちゃん！？」

｛そちらの状況は聞いた。白鯨の再浮上は無理でも、大質量で無理矢理叩き落とせば街に届く前に墜落させられる。この無人機を衝突させる｝

「そうか……！凄いよ鏡花ちゃん、これで皆助かる！脱出器具の用意を頼みます！鏡花ちゃん、君も疾く脱出するんだ」

｛───無理｝

「……え？」

敦の顔が凍りつく。鏡花は静かな声で残酷すぎる事実を告げた。

｛私は虜囚。足首が鎖で繋がれているから、脱出装置のある部屋まで行けない｝

「そんな……じゃあ……」

｛私のことは諦めて｝

「駄目だ！！そんなの駄目だ！軌道を変えるんだ！」

バンッと制御装置を叩き敦が叫ぶ。隔離され誰もいない機内で、鏡花は独り何かを思い出すように少し目を閉じた。

｛これまで私には一片の光もなかった。でも今日判った。私にも選択肢はあると。命を犠牲にして皆を助ければ、きっと私は入社試験に合格出来る(・・・・・・・・・・・・・・・)。なら何も惜しくはない｝

「止めるんだ！！」

敦が叫ぶが、無人機は非情にも軌道を変えることなく操舵室へと突っ込まんと接近してくる。

「突っ込んでくる！行くぞ！」

何も出来ず立ち尽くす敦の首を掴み芥川が引き摺った。

「っ、放せ！聞いてくれ！！」

｛───ありがとう。……ごめんなさい｝

凄まじい音とともに、無人機が白鯨へと衝突した。