【文スト】境界の栞 Ⅳ【太宰治】 (ページ7)

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145葉ページ7

『……浴衣？しかも懐かしいやつ。あの夜着てたやつだ……』

紺の浴衣に狐面。御丁寧に片目包帯までしていた。成長して幾分か背が伸びたとはいえ、あの日にそっくりだ。

「特に爆弾脅迫をする理由がないからね……愉快犯でいいと思ってノリで揃えてみたよ」

『……うん、突っ込まないわ』

「太宰、お前それ如何した？」

入って来た織田作は驚き顔でそう尋ねる。まぁ久々に見るもんなぁ……

「織田作！これから入社試験本番だからね」

「そうか。頑張れ」

『……云っとくけど確保されなきゃいけないんだからね？お手柔らかにね？』

「うふふ」

これではたして大丈夫なんだろうか……

《探偵社前、敦side》
「ここが探偵社だ。行くぞ」

「あの、何時の間にか太宰さんが居ませんけど……」

「あの唐変木……！……仕方ない。俺達だけで行くぞ」

静かに階段で上へ上がり、ドアを開ける。

「……！？」

敦は勿論、話に聞いていた筈の国木田でさえその光景に息を呑んだ。

「……おや、また誰か来たの？」

事務室の一番奥の机に、狐面を付けた紺の浴衣の男が座っている。
その姿はまるで気負いというものが感じられず、傍から見れば奥の開けられた窓から吹く風を楽しむだけのようにも見えるだろう。
しかし、その足下にある無機質な爆弾と拘束され俯いているAの姿がその男が爆弾魔だという紛れもない事実を伝えていた。

「国木田さん、あの男の声に覚えはないんですか？」

「無駄だ……恐らく狐面に変声機が付けられている。こうなれば、武力行使で取り押さえるしかない」

男の方へと近付いた国木田。戦闘態勢をとりつつ、低い声で唸る様に云った。

「……Aを返してもらう。大人しくお縄につけ」

「面白い切り出し方だね。けど……君達はそうする訳には行かない。私がこの部屋から出れば、この爆弾は直ぐ起爆されるのだから」

「……どういう事だ」

「折角だから教えてあげよう。この爆弾の起爆条件は三つ……
一つ、私がこの部屋から出ること。
ニつ、私の心臓が止まること。死ぬ事、とも言えるね。
三つ、この釦を使うこと。
───さぁ、どうする？」

狐面越しでも判った。男は──────嗤っている。