【文スト】境界の栞 Ⅳ【太宰治】 (ページ47)

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『っん……』

呻きながらも瞼を持ち上げる。どうやらマフィアの医務室ではないようだ。
身体中が痛む、また何かをやらかしてしまったのだろうが……思い出せない。扉が開く音がして僅かに首を巡らせた。

「A……起きたのだね」

入ってきた彼が、安堵と何かの入り交じった複雑な表情でそう云った。そんな彼に、私はふとした疑問を感じてこう訊く。

『どうしたんですか？その格好……』

「……え？」

凍りついた彼。えっと……どうするべきだろうか。

『何か、拙い事でも云いました……？───太宰さん(・・・・)』

《太宰side》
不安げに辺りを見回す彼女を他所に、私は激しく動揺していた。

「(何故だ？如何して……如何してAは)」

ふと扉の開く音がして振り返る。思わず自分の目を疑った。

「手前っ、太宰！？何で此処に……！」

「中也、御託はいいから簡潔に教えろ」

皆まで云う必要もない。そう詰め寄ると、少しの逡巡の後背を向けた。

「……取り敢えず此方来い」

別室に移動。私が口を開く前に彼はこう云った。

「手前はAの過去をどれだけ知ってる？」

「過去……？」

そう云われ困惑しつつ思い出す。彼女は違う世界から転生してきた、と云ってはいたが───それ以前のことは知らない。

「手前が捕縛された日、大通り裏にある事務所が襲撃で全滅した。表まで硝煙の臭いがする程だった。
多少憶測も交じるが……彼奴は異変を察したんだろうな。部下が死んだ時間から推測すれば、Aがその場に行った頃には皆死んでた筈だ」

「……それが如何してこの状況に繋がる？」

「俺はその少し後に通りがかったんだよ。過呼吸を起こしてた」

「！」

そういえば以前も一度過呼吸を引き起こしかけた事があった筈だ。それが関係しているのか……？

「彼奴のすぐ横で男が死んでた。マフィア関係者じゃねェ男だ。拳銃も落ちてた」

「それって……Aが、殺した……？」

「多分な。そう考えていい。その後、彼奴はマフィアに所属することになった。それ以上のことは俺も踏み込んでないが……煙草が何かに関わってるらしい。トラウマ克服、だと」

「……。」

「俺からも一つ聞かせろ太宰」

「何？」

「何で其処まで切羽詰まってんだよ」

答えるべきか悩んだが、現状最も事情を知っているのは中也だ。ひとつ溜息を吐いた。

「……多分、Aの記憶が六年前まで抜け落ちてる。私と出会った直後くらいまでね」

「何だと……！？」