【文スト】境界の栞 Ⅳ【太宰治】 (ページ32)

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160葉ページ32

社に落ちる重い沈黙。その時、扉が開き出てきた人影が一つあった。

「社長！Aさんが……！」

「……凡そは特務課の方から連絡を受けた。
これは由々しく容易ならざる事態だ。社員一同奪還を最優先事項とし、通常業務は凍結とする」

「「「はい！」」」

一斉に社員達が散る。残ったのは織田作と福沢の二名だった。

「……この事態、如何見ている」

「Aは異能をその強力さからマフィアでは秘匿していました。探偵社(此処)に来てその話がマフィアに届いたとしてもおかしくない……何故、俺は直ぐに気づけなかった……」

強い後悔の滲む言葉。福沢は少し目を伏せた。

「それよりも今は月影の捜索が先だ」

「無駄でしょ」

「……乱歩さん、何故」

かつて無い程真剣な表情の乱歩に織田作が訊く。

「Aはマフィアに居る、それは確かだ。でも連れ戻したところで意味なんかないよ。今Aは───望んでマフィアに所属してるから(・・・・・・・・・・・・・・・)」

「望んで、マフィアに……？それは、一体」

「どういう事だ乱歩！」

「僕は警告をした。それを彼女は守れなかったんだ」

「警告？守れなかった？教えて下さい乱歩さん、Aは一体……！」

「闇から引き上げられるのは太宰だけだよ。それも限りなく低い可能性だ。社長」

「……何だ」

「情報規制をした方がいい。今は探偵社員としてのAの情報を全て秘匿して。
それと……太宰に今話した件と処分については知らせちゃ駄目だ。まあ余程でない限り話そうとはしないだろうけど」

「……嗚呼、判った」

「この事件の展開は僕にも読めない。全てを知るのは太宰とAの二人だけだ」

《ポートマフィア執務室》
『そろそろ準備しないとな……』

「任務ですか？」

『一発目は配下組織との取り引きだよ。十時から』

「え？未だ四時間あるじゃないですか」

彼の云う通り、まだ時刻は午後六時だ。だが……素顔のままで出掛ければ速攻で捕縛されるだろう。

『ほら、素顔晒したくないじゃない？だから変装しようと思って。三時間はかかるから』

「三時間！？」

『化けてくるから宜しく。これ把握しといてね』

パタンと個室の扉を閉じて鍵を掛ける。スキマからぽんぽんと当時と同じ(・・・・・)メイク道具を取り出して、私はメイクにかかった。