【文スト】境界の栞 Ⅳ【太宰治】 (ページ31)

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169葉ページ31

「それならこんなことをしてる場合じゃないですよ！早くAさんを取り戻さないと！！」

「でも、マフィア相手にどうすれば……」

「……それは」

ヨコハマの暗部そのものにどう抗えと云うのか。当たり前の主張だった。

「……暫く、マフィアに潜り込んで調べる事にするよ。可能なら連れ戻して来る」

「危ないですよ！幾ら太宰さんでもそれは……！」

「じゃあ誰がやるんだい！？」

「ッ！」

思わず声を荒らげてハッとする。柄でもない真似をしてしまったことに気が付き、居た堪れなくなって社を飛び出した。

「太宰さん！！」

「……如何してあんなに焦ってるンでしょうか」

「無理もないな……」

携帯を仕舞いながら入って来たのは織田作だ。

「織田か。何故だ？」

「本人が居ない状況で詳しくは云えない。だが昔、マフィアの首領が原因で手痛い目に遭った事がある。あの時こそ無事だったが、今度こそ取り返しのつかない事になるのを彼奴は恐れてる」

「取り返しのつかない事……？」

「……危険な事なのは判っている。だが……Aを取り返すのに協力してくれないか」

「当たり前です！」

深く頭を下げた織田に真っ先に言葉を発したのは敦だった。

「Aさんは餓死しかけてた僕を救って、僕をこの場所に引き入れてくれたんです。太宰さんと織田さんにも沢山助けてもらいました。だから今度は、僕が助けます」

「敦……」

マフィアから狙われ散々な目に遭っている分重みのある敦の言葉。それに社員達が動かされた。

「仕方ないねェ……怪我したら解体するからね」

「そっ、それは勘弁して欲しいですけど……」

「絶対助けましょう！」

一方の国木田は社の電話で誰かと話している。

「はい、はい……」

言葉を切って一度深く考え、こう口にした。

「判りました。謹んで受けさせて頂きます」

「国木田さん？」

「───お前ら仕事だ。全員動くぞ」

一同の顔に緊張が走る。探偵社員全員が動く依頼など前代未聞だ。

「依頼者は内務省異能特務課。内容は、月影の奪還だ」

「……！」

「期限は一ヶ月。それが出来なければ───月影は、処分される(・・・・・)」

「処分、って……！」

「……Aは特A級危険異能者だそうだ。強制とはいえ裏社会に与しているとなれば何もおかしくない───むしろ一ヶ月待つ事態の方が異例だ」

通例ならば即処分、そこだけは安吾が何とか意見を押し通したのだろう。それが唯一の救いだった。