【文スト】境界の栞 Ⅳ【太宰治】 (ページ30)

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168葉ページ30

「ッ、私……！」

「待て、早まるな！」

「でも……！！」

織田作に腕を掴まれた状態で歯噛みする。もし本当に拐われたのなら、鴎外は如何なる手段を用いてでもマフィアへ戻れと迫るだろう。
Aを屈させるには如何するか？簡単だ。周りの人間を消すと脅せばいい。
そうなれば彼女は必ず膝をつく。そうでなかったとしても周りの人間が殺される。状況は最悪だった。

「……話すか？」

「それは駄目だ。……自分が居ない状況で明かすのはAも厭だろう」

「それは、そうだが……」

「中也が何か知ってるのは間違いないよ。多分芥川君も噛んでくる」

「上層部が何か知っているのか」

「何方にせよ五大幹部以上の人間には何か通達がある筈だ。大半が四年前から在籍する人間だから」

マフィアに加入したのなら一先ず危害を加えられることは無いだろう。中也は兎も角、そんな事を姐さんが認めるとは思えない。

「……Aがマフィアに拐われたという事だけでも伝えた方がいい。恐らく目的はAの異能だろう。特務課には俺から連絡を入れておく」

「…………判った」

「Aなら大丈夫だ。それに、マフィアに引けを取る程彼奴らは弱くない」

「そう、だね」

何とか笑ってそう返す。一度大きく深呼吸してから、扉の把手を捻った。

「一寸……」

「何があったんで……」「事情を説明し……」「一寸被せたら太宰さん聞こえ……」「解体希望……」「兎に角説明しろ！」

「……。」

一斉に詰め寄った社員たちに太宰は暫しポカンとし───思わず吹き出してしまった。

「な、何で笑うんですか！？」

「否、君たちなら大丈夫なんだなって……ふふっ」

「太宰さん、泣いてます？」

「……真逆！余りにも面白かったから。
却説、何があったかだね」

「嗚呼そうだ、それが肝心な話だ」

こんなやり取りをした後でも、矢張り少し躊躇った。

「如何した、早く云え」

「……Aが」

「Aさんが、何か？」

「Aが、マフィアに拐われた」

空気が凍りついた。当然だ、マフィアに拐われたとなれば一大事どころでは済まない。

「そんな、如何してAさんを拐ったんですか！」

「異能目当てだ、多分ね。マフィアとAの接点は少なくなかったから……」

「……あの時、目を付けられたという事か……！」

本人は違うと云うが芥川を単独撃退したのだ。目を付けられるのは或る意味当然の話だった。