【文スト】境界の栞 Ⅳ【太宰治】 (ページ29)

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167葉ページ29

その一方、太宰は。

「なーんーかー、わすーれてなーいかなー？」

「ッ～……！───二度目はなくってよ！
にっ、二度っ……わああらうとこだろ其処は！！」

真顔の太宰に叫ぶと拳を強く握り締めてバッと扉の方を向く。

「さっさと失せやがれ」

「云われなくてもそうするさ」

「───知りもしねェで呑気に」

そう吐き捨てて去っていった中也。その言葉が何処か引っかかった太宰は追いかけ呼び止めた。

「……それどういう意味」

「帰って考えりゃ判んじゃねェのか？」

教える気はない。言葉なしにそう告げられる。

「(彼処まで追い詰めても余裕がある上嘘は吐いてない……何か重大なことを知ってるということか……？)」

諦めて舌打ちを一つしてから外に出る。取り敢えず一度も連絡していないAに安否を伝える為寮へと戻ったのだが───

「……戻って、ない？」

寮の部屋は数日前のまま変化しておらず、誰かが入った気配もない。ならAは何処へ……
刹那戦慄が走った。駆け出して社へ向かうと、ドアを蹴破る。

「な、何だ！……太宰、お前今まで何を」

「A見てない！？」

「は？見てないも何も……お前と共に動いていたのではないのか」

国木田の言葉に膝から崩れ落ちそうになった。その言葉が、指しているのは。

「あの日から……」

「……一度外に出るぞ」

太宰の様子に異常を悟った織田作が太宰を外に連れ出す。他の社員も付いてこようとするのを手で制した。

「何があった？顔色が悪い」

「マフィアに捕縛されてたのだけど……その日を境にAと連絡が取れてない」

「……太宰、お前真逆」

「───私は一緒に行動してない(・・・・・・・・・)。私もAの行方を知らないんだ」

「……。」

太宰の言葉に織田作は伝えるべきなのか迷った。だが……

「……安吾から連絡があった。面会の場に現れなかったらしい」

「！」

「俺からでも連絡が取れない。何らかの事態に巻き込まれているのは間違いない筈だ」

特A級危険異能者であるAには、監視緩和の条件として月に一度の面会が義務付けられているのだ。
Aがそれを放棄するということは先ず有り得ない。そして、中也の言葉───

「……真逆そんな、そんな訳……」

青ざめた顔でうわ言の様に呟く太宰。云わずとも、二人の頭には同じ考えが浮かんでいた。

「マフィアに拐われた(・・・・・・・・・)。それが有力だろうな……」