【文スト】境界の栞 Ⅳ【太宰治】 (ページ25)

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163葉ページ25

『ん……？』

緩やかに意識が浮上した私は、その白い天井に見覚えがあった。何だったっけ……
数秒考えてから思い出した。マフィアの医務室だ。

『私……彼処で、倒れて』

そうだ、私を見つけた中也に助けられ此処に運ばれたのだ。その時寝台のカーテンが開けられた。いたのは───

「目覚めたかね？」

『……森さん』

「少し深めの睡眠薬を盛らせてもらった。今は君が倒れた翌日の夕方な訳だが……その分落ち着いたのではないかね」

『……一応』

真逆最初から居ると思わなくて心臓が飛び跳ねかけたが、どうにか平穏を装ってそう答える。確かに窓から橙色の光が射し込んでいた。

『……すみません』

「構わないよ、此方にも利益があるのならね。───寝台の横に置いてあるものが何かは判るね？」

ちらりと見る。六年前も書いたマフィアの加入用紙だ。

「書いてもらうよ」

『……。』

「書かなくても勿論いい。その場合、周りの人間が一人ずつ消えていくことになるが───」

さらさらと名前を書き込んでポイッと放り投げる。
それを掴んだ森さんは、私を見てから紙を見て、もう一度私を見た。それを二回程繰り返す。

『───消えるのは周りの人間じゃない。私ですよ、首領(・・)』

「……いいだろう、歓迎するよ。だが───君は何をそこまで恐れているのだね」

その言葉にまた息が詰まりそうになる。それを無理やり押し込めて、私は逆に問い返した。

『その質問は、組織の長としての命令ですか』

「いいや。私個人が発した、単純な興味……加えて、唯の町医者としての質問だよ」

『……なら答えたくありません。暫く放っといてくれませんか』

「……判った、誰も立ち入らせないようにしておこう。まあ数人は押し入って来るかもしれないが……」

その数人に明確な心当たりがあるが故に少し苦笑いが零れる。其れを見た首領も少し笑った。何か考えがある訳でもないただの笑いに見えた。

「君には幹部を任せたい。部屋は開いているから、執務はそこを使いなさい」

『彼処ですか……判りました』

一瞬、彼の顔が頭を過ったが───振り払って、気怠さに逆らわずに私は再び眠りについた。