【文スト】境界の栞 Ⅳ【太宰治】 (ページ20)

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158葉ページ20

それから数時間後。漸く解放された頃には日が暮れていた。

『うぃーっす、敦君大丈夫ー……？』

「あの、Aさんの方が心配なんですけど……何があったんですか……？」

「うふふ、気の所為じゃないかな」

私の自業自得とはいえ悪魔だこの人……！！

「あ、Aも来たの？」

『一寸気になったから。これ差し入れです』

「気が利くじゃあないか！しかも最近のブームのやつ！」

いやあ、あげたくなるんだよね……餌付け感覚、なのか……？

「今回の事件も無事解決したよ！僕は名探偵だからね！」

『流石です』

「まぁね！」

「乱歩さん、凄かったです！」

『───あれ、異能じゃないから余計に凄いよねえ……』

「へっ！？」

「そう、乱歩さんは能力者揃いの探偵社では珍しい、何の能力も所持しない一般人なんだ。本人は能力を使ってる心算みたいだけど」

『今回の事件も、ゆっくり考えれば私達でも分かるよ？』

それをスパッと一瞬でこなすのが乱歩さんな訳だけどね。

「さて敦君。これで判ったろう？」

「何がです？」

「乱歩さんのあの態度を、探偵社の誰も咎めない理由がさ」

「……はい。確かに判りました」

『事件解決してよかったよ。飲みに行こ、今日はそうでもしないとやってられない』

「いいね。上がったら行こうか」

……と、云っていたのだが。想定以上に治が溜め込んでた報告書にとうとう国木田君がキレ、治は残業を命じられてしまった。
織田作も後から来るそうなので、今は私一人で歩いている次第だ。

『真逆あんなに見逃してたとは……一応溜め込んでないか気をつけてたんだけどなぁ』

ぼやきながら歩いていると、ふと鼻につく厭な臭いがして足を止める。

『…………硝煙の臭い……？』

路地裏だ。見たところ軍警や市警が動いた様な様子は無い。
様子を見るべく、念の為拳銃を構え入る。奥へ進むにつれ、硝煙の臭いに紛れ濃い血の匂いもした。これでほぼ確定だ、恐らく誰かが殺されている。血の足跡が続いていた。
逆に辿り続け着いたのは、マフィアのテナントビル。

『襲撃を受けたって事か……』

何方にせよこれは軍警に報告せねばならない。扉をそっと開ければ、思わず顔を顰める程の惨状が繰り広げられていた。
黒服が、ズタズタな肉塊となり転がっている。この空間で生存する人間は私だけの様だった。

『うわ……』

血の匂い、硝煙の臭い───そして、煙草の臭いがした。