【文スト】境界の栞 Ⅱ【太宰治】 (ページ7)

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55葉ページ7

「とはいえ、肩書きにも一つ善い点があってね。幹部は自分直属の部下を、自由に一人雇い入れる権限が与えられるのだよ」

因みに私の場合口封じという名目だった為正確にはスカウトではなかったそうだ。首領が気を利かせてくれたらしい。

『此奴らを殺した理由はそれだよ。芥川君への手土産……といったところかな。
あなたは金とか地位に靡くタイプじゃないし、これがその契約金』

「そういうこと。───君をポートマフィアに勧誘したい」

治が云い終わるか否かといったその刹那、芥川君が異能で襲いかかる。
私は動かない治をチラリと見やってから結界を構築してその黒刃を弾いた。治に触れるか否かというスレスレで刃が止まる。

「悪くないね」

『だね。咆えぬ狂犬の名前は伊達じゃないってことだ』

「……如何やった。六人もの武装した輩を、如何やって殺した」

『仲間割れさせた。ただそれだけ』

「聞き給え。勧誘を受けなくとも恨みはしない。たとえ断っても、君の友人たちは此方で手厚く葬り、君と妹が生活に困らぬだけの金子も与えよう。そしてそれきり、君の前に現れないと約束しよう」

『それでも、君に覚悟があるなら私達は求めるものを与えるよ。容易い道ではないよ……少なくとも、その最下層の暮らしがぬるま湯に思える程には。でも、その覚悟があるなら───』

そこまで言葉を綴ったが、肩を竦めて口を閉じる。代わりに問いかけたのは治だ。

「……求めるものはあるかい？」

治の問いに、暫く考えていた芥川君がこう問うた。

「僕が生きる意味を───与えられるか」

「与えられる」

『さあ、返答は？』

慟哭。
それが芥川君の答えだった。意味もなく殺され、終にその意味を得られなかった仲間の為に。

「善い返事だ」

治が微笑み、着ていた外套を芥川君に着せる。私はそっと頭を撫でて云った。

『ポートマフィアへようこそ、芥川龍之介君』